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ステラ「シン……好き」 シン「ステラ………でも俺達は…」 ステラ「大丈夫。シンは私達と血が繋がっていないってセツコ言ってた」 シン「!!」 ステラ「ステラはシン好き………シンは?」 シン「俺は……俺もステラのことが…」 物陰から 琉菜「……負けちゃったか」 エイジ「お、どうしたんだお前」 琉菜「うるさい……ほっといて」 エイジ「ほっとけって目の前で泣いてる奴ほうって置けるかよ!ほら、ハンカチ」 琉菜「あ、ありがとう」 別の物陰 斗牙「ステラ……」 フェイ「何、あなたも失恋?」 斗牙「………ああ」 フェイ「ならちょっと付き合わない?私も失恋したばっかりなのよ」 キラ「(はふはふ)ちょっと!(はふはふ)妹とくっついちゃったよ!(はふはふ)」 キラケン「(はふはふ)まさかまさか(はふはふ)じゃな」 アスラン「(はふはふ)そんな慌てて餅食うと喉につまるぞ」 ルナマリア「(はふはふ)2クール目で恋敵組も半分脱落ね」 ステラ「………ネコさんだ」 ステラ「………あ、危ない」 キキッー ガシャーンッ シン「ただいま………あれ、セツコ姉さん。どうしたんだ?」 セツコ「シン君……ステラちゃんが………ステラちゃんが」 キラ「妹死んだー!!(ポリポリ)」 キラケン「涙でポテチがしょっぱいわい(ポリポリ)」 アスラン「どうなる!どうなる続き!(ポリポリ)」 ルナマリア「せっかく………シクシク……せっかく結ばれたのに……(ポリポリ)」 シン「ステラが……そんな……ステラァァ!」 セツコ「シン君落ち着いて」 シン「うるさい!本当の姉じゃないくせに!」 セツコ「!……知ってたの」 シン「ああ、全部知ってる。ステラが教えてくれた」 セツコ「………そう」 シン「なんで黙ってたんだよ。俺は…俺は……クッ」 セツコ「シン君!」 シン「ステラ………ステラ…ステラ……ステラ…」 ???「雨の中何してるの君」 シン「………え」 ミヅキ「はい、傘。風邪ひくわよ」 シン「………どうも」 ミヅキ「良かったら何があったか話てみて。それだけでも楽になるわよ」 キラ「(もきゅもきゅ)前途多難すぎだよね。(もきゅもきゅ)姉編」 キラケン「(もきゅもきゅ)栗の殻をむくのと同じで大変じゃのう」 アスラン「(もきゅもきゅ)そう言えば本物のシンを最近見ないな」 ルナマリア「(もきゅもきゅ)オーブに現在泊まり込みで撮影中です。(もきゅもきゅ)もちろんセツコさんその他スタッフもね」 メイリン「(もきゅもきゅ)これオーブで撮ってたんだ……」 セツコ「最近はドラマで盛り上がってるけど私の出番少なくかしら」 クワトロ「そうだな。だがヒロインは後半勝負な奴もいるから大丈夫だ」 ハマーン「前半のヒロインが死んじゃったからおこぼれでヒロインになったのもいるがな」 アムロ「しかも前半ヒロインが死んだおかげでいつも後半ヒロインはあまり人気が出ないとか良くある話だ」 ルナマリア「それって誰の」 ファ「話ですか?」 シン「まだマシじゃないか。俺なんか最初から主人公だったって設定なのに凸とか議長とか前作の主人公とかに出番を盗られ、さらに前作の主人公を落としたらバッシングの嵐。そしてしまいには主人公降格………はぁ」 セツコ「シン君!」 シン「セツコ姉さん……」 セツコ「やっと見つけた。ここ数日、どこ行ってたの…?」 シン「………」 セツコ「帰りましょう。私達はたった2人の家族なのよ」 シン「……だからなんだよ。本当の家族でもないのに」 セツコ「シン君……」 シン「俺はもう1人で生きられる!あんたとは何も関係ない!」 セツコ「シン君……!」 キラ「(コリコリ)鬱だね」 キラケン「(コリコリ)鬱じゃのう」 ルナマリア「(コリコリ)これからどうなるのかしら?」 アスラン「(コリコリ)そろそろ軟骨が切れそうだからコンビニ行くけどついで何か欲しいものあるか?」 キラ「スク○イドDVDbox」 キラケン「キ○肉マンDVDbox」 ルナマリア「聖闘士○矢DVDbox」 アスラン「ついでに買えるものじゃない!!しかも、スパロボに全然関係ない!」 キラ・キラケンでタッグ↓ r ‐、 | ○ | r‐‐、 _,;ト - イ、 ∧l☆│∧ (⌒` ⌒・ ¨,、,,ト.-イ/,、 l |ヽ ~~⌒γ⌒) r ⌒ `!´ `⌒) │ ヽー― ^ー- ( ⌒γ⌒~~ /| │ 〉 |│ |`ー^ー― r | │ /───| | |/ | l ト、 | | irー-、 ー ,} | / i | / `X´ ヽ / 入 キラケン キラ カミーユ「大変だシン!」 フォウ「あなたのお姉さんが階段から落ちて昏睡状態らしいわ!」 シン「何だって!?」 病院 セツコ「…………」 シン「そんな……セツコ姉さん…」 ディアッカ「非グッレイトォ。残念だが回復の見込みはごくわずかだぜぇ!」 シン「そんな………嘘だ……セツコ姉さん…嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」 キラ「(ペロペロ)主人公……壊れないかな」 キラケン「(ペロペロ)うおっ!先にわしのガリ○リ君が壊れたわ!」 アスラン「(ペロペロ)っていうかこの医者KYすぎだろ」 ルナマリア「(ペロペロ)アスランやキラさんみたいですね」 アスラン「うっ」グサッ キラ「またまた、そんな褒めないでよ」 ルナマリア「(これがフリーダムの力ね)」
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シン「ステラ……生きてたんだな……」 ステラ「シン……好き……」 セツコ「…………」 ミヅキ「安心しなさい、ステラの好きはお兄さんに対するそれみたいなものだから」 セツコ「えっ……いや、そんな妬いてなんていませんよ」 メイリン「なんでセツコさんが妬いてるの?」 ハマーン「知らなかったのか。あの二人は随分前からそういう関係だったのだ」 メイリン「えーっ!そうだったんですか!?」 ハマーン「うむ。この多元世界では予想だにしない組み合わせの男女がくっつくというのも珍しい事ではない」 ハマーン「だから常に広い視野と柔軟な発想をもって観察する事を怠ってはならんぞ」 メイリン「はい、ハマーンさん」 キラケン「そんな……そんなああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 雷太「お前……」 ステラ「シン見て見て~」つ折り紙の鶴 シン「お、上手に折れたなステラ」ナデナデ ステラ「~♪~♪」 セツコ「………」 セツコ「シン君………これ」つ千羽鶴 シン「うわ、こんなに……すごいですねセツコさん」 セツコ「そ、そうかな………ウズウズ」 シン「これ全部1人で?」 セツコ「うん、シン君のために……ウズウズ」 シン「俺のためって!ありがとうございます///」ニコッ セツコ「……それだけ?」 シン「………え?」 セツコ「っ!シン君の馬鹿!」ダッ シン「え、セツコさん!?」 ハマーン「年上だって偶には甘えたものなんだよ」ピキーン クワトロ「セツコ君も撫でてほしかったのだな」ピキーン アムロ「そのためだけに千羽も鶴を折ったのか」ピキーン 琉菜「え、エイジ、私、鶴折ってみたんだけど…」 斗牙「見てよエイジ。折り紙って楽しいね」つ千羽どころか万羽鶴状態 エイジ「うお、やりすぎだろ!」 琉菜「うわぁぁぁん!」ダッ ハマーン「彼女も大変だな」 エウレカ「優しい世界でありますように(折り紙しながら)」 ―――シン君…覚えてるかな? 前に私に飴玉くれたよね。もう、あの時の私に飴の味は分からなかったけれど…私、心が暖かくなったんだ。 それにね。 味は分からないのに、凄く…凄く優しい甘さ、感じたんだ。舌じゃなくて、これも私の心が感じたの。 今思うと―――あの時感じたあの温もりと優しい甘さはシン君そのものだったのかって…そう、思う。 シン君と私。 最初に思ったのは『似た者同士』。 家族を亡くした事がきっかけで軍に入って、必死でここまで来た、貴方と私。 でも、戦う理由とか、力への渇望は正反対だったよね。 不思議だと思ってた。この子は何でここまで戦えるんだろう―――不思議だったよ。 シン君と出会って、一緒に戦場を飛んでいく内に、だんだん貴方を見る事が増えていって…その中で感じた、本当のシン君。 誰よりも単純で純粋。真っ直ぐで優しい人。 鉄也さんやクワトロ大尉、アムロさん達の言葉通りだった。 そんなシン君と沢山お話したり、色々訓練したり。 私…シン君に感謝してる。私は貴方がいてくれたから生きているの。 貴方が…私に光をくれたから。 あの事件がなければ出会っていなかった貴方と私。 ―――不思議だね。 今の私はどんどん身体の感覚も失っていく一方。 生命力も落ちていく一方なのに。 私、少しも絶望してないんだ。 怖いはずなんだけど、安らいでる。おかしいよね。 でも本当なの。 だって…目を開いていても、閉じていても、笑顔のシン君が見えるんだもの。 だからちっとも怖くなんてない。 私に残された時間は後僅か―――先日、ドクターにそう伝えられました。 恐怖は感じなかった。 ああ…やっぱり―――そう思ったのが正直なところかな…。 自分の身体だもの、自分で分かるから。 だから、という訳ではないけれど、今こうして手紙を書いています。 シン君にどうしても伝えたい一言があったから。 シン君。 私、セツコ・オハラは貴方を愛してます。 世界中の誰よりも、シン君を。 こうして、こんな形で打ち明ける私はズルいよね。 だけど…ごめんなさい。 この気持ちだけは、残したかったの。 貴方と一緒に戦って、笑って、泣いた日々は私の宝物です。 最後になるけれど―― ―――どうか…幸せになってね… セツコ・オハラより。 ~シンの自室~ セツコ「シン君? 月光号で新しいケーキ見つけたから一緒に食べ……いない」 セツコ「シン君……カミーユ君と一緒かな?」 セツコ「誰もいない……っか」 セツコ「…………」 セツコ「……誰もいないんだよね?」 ぼふん セツコ「シン君のベッド…………」 セツコ「んぅ……シン君の匂い……」 セツコ「セツコさん、抱きしめて良い?」 セツコ「シン君? あ、だめ、まだお風呂入ってないのに……」 セツコ「答えは聞いてない。俺、セツコさんを抱きしめたいんだ」 セツコ「あん、もう。甘えん坊なんだから」 セツコ「セツコさんって柔らかくて、気持ちいいな。それに良い匂いだ」 セツコ「こら、大人をからかわないの」 セツコ「年下だってたまには反撃しても良いでしょ?」 セツコ「生意気なんだから……でも、たまには良いかな」 セツコ「へへっ、だったら」 セツコ「あ、こら! こんなところでいきなり………………なぁんちゃって」 セツコ「んもぅ、何想像してるの私! ああ、もう! 恥ずかしいったらないのに……んふふ♪」 セツコ「シーン君♪ セーツコさんっ♪ なんて言っちゃったりして! ああもう何考えてるの私!」 セツコ「なんちゃってなんんちゃってなんちゃってっっ♪ ああもう恥ずかしい、私っt!!」 シャギア「やあ」 オルバ「どうも」 セツコ「い……いつから見てました?」 シャギア「なに、今来たばかりだセツコ・オハラ」 オルバ「決してセツコさん、抱きしめていい? といったところからではないさ」 セツコ「wq府ygくぁpl2qz3wェ4dcr5fv6ghy7jン8kmlp;。@:・!!!!!!!!!!!!!!」 シャギア「おお、声にならない叫びを上げているぞ、オルバよ」 オルバ「おもしろいね、兄さん」 シン「カミーユやがロードたちとGvsG楽しかったな、結構アムロさんムキになるんだな、ははっ」 レイ「おかえり、シン。……いい息抜きになったようだな」 シン「ああ、あのアムロさんが『俺がガンダムを一番うまく扱えるんだ!』とか言ってさ!」 レイ「ふ……あの人も人の子だったのだな」 シン「うん。落ち着いてて何もかも見渡してるみたいな人みたいに思えたけど普通なんだなって」 レイ「明日も早い、そろそろ寝るぞ」 シン「了解了解、さてとベッドに入……ん?」 レイ「どうした?」 シン「いや、何でも。ちょっといいもの見つけてさ」 レイ「?」 シン「気にしない気にしない」 シン(枕元に落ちてたコレ……この色、長さってセツコさんの髪、だよな。…こう小指に巻いて) くるくる シン(赤い糸ー♪…って何やってんだ俺は。…でも何でベッドにセツコさんの髪あったんだろ?) シャギア「オルバよ、ちゃんと録画できてるな?」 オルバ「ああ。UNに流す準備は万端さ、兄さん」 シャギア「あとはミネルバ、アーガマ、月光号、グローマ、フリーデン、アイアン・ギアー、キングビアル、全ての艦に流すだけだな」 オルバ「ふふっ、彼等が赤面する様が楽しみでしょうがないよ……」 ???「待てーーーい!」 シャギア「!?」 オルバ「こ、この声は…!?」 キラケン「あれだけ二人の仲を邪魔をしといてからに… まだ足りないんかい!」 雷太「今日と言う今日は許さんぞ!貴様ら!」 シャギア「なっ…!?」 オルバ「ば、馬鹿な!? き、吉良謙作が二人もいるなんて!?」 雷太「違う、違ーーーーう! 俺は北斗雷太! マリン・レイガンの戦友だ!!」 キラケン「ともかく、フロスト兄弟! フゥゥゥロストシュガーにしちゃるわい!!」 フロスト兄弟「ちょっ! おま…砂糖だけじゃなくて塩化カルシウムまで混ざって………うっ ぐぺぺぺぺーっ!」 しばらくして、フロスト兄弟がフロストシュガーにされた映像がUNで流されたという……… フロスト兄弟『うっ ぐぺぺぺぺーっ!』 セツコ「………」 シン「こ、これって… 一体何なんでしょうね…??」 セツコ「さ、さあ………??」 シン「これだけ寒いと天使湯が気持ちいいなぁ~……」 カラカラカラ シン「ん?誰だろ?」 シャイアー「あら、シン君」 シン「!?!?!?ま、ま、前くらい隠してくださいー!?」 シャイアー「あらあら、こんなオバサン恥ずかしがらなくてもいいのに」 とぷん シン「う、うわわっ!」 シャイアー「アークエンジェルのこのお風呂もいいわねー♪」 シン「は、はい……」 シャイアー「どうしたの、固まって。どこか痛いのかしら、見せてみて」 ざぱっ シン「うわああっ!か、体湯船から出さないでください!こっちに来ちゃ、ん?え?えええ!?」 セツコ「……」じとー シン「あ、あの……セツコさん?な、なんでこちらに?て、てかもしかして、怒ってます?」 セツコ「……私が天使湯にいちゃダメなの?」 シン「そ、そうじゃなくて……」 セツコ「シン君のラッキースケベ……」 シャイアー「セツコも一緒に入りましょ」ニコニコ 寝室…周りには脱がれた服が丁寧に置かれている。 服は男物と女物があり上着の他、下着も置かれていた。 シン「………」 シンは自分の隣で寝ているセツコの顔を見ていた。少し押し付けられた胸の感触が心地よい。 一方のセツコは無防備な顔をしつつしっかりとシンに抱きついて離さない様子であった。 眼が見えなくなった頃だろうか、今では少しづつ視力が戻り始めてきているが。 眼がおかしくなり始めたあたりからセツコはシンのそばにいる時はこうしてずっとくっついていた。 寝る時はおろか、夜の営みに関してもそう。特に営む時は脚すらも絡めてくるため、避妊をしようにも 出来ない状況だ。ちなみに避妊具はセツコの思いにより装着していない。 シン「今のままでもいいけどちょっとなぁ、まだ十代だっていうのに…。 でき婚は…なんとか避けたいなあ」 密かに、シンは婚姻届を隠している秘密の棚に眼を向けた。 もう、いいかな。明日切り出そうか。 そう思い直して、シンは眠りについた。 しかし、シンは知らない。すでに手遅れだという事に。 セツコとシンの十の約束 1.私の余生は残りわずか。シン君と離れるのが一番つらいことです。 どうか、私と暮らす前にそのことを覚えておいて欲しい。 2.シン君が私に何を求めているのか、私がそれを理解するまで待って欲しい。 3.私を愛して欲しい、それが私の幸せなのだから。 4.私を長い間放っておいたり、罰として知らんぷりしないで欲しい。シン君には他にやる事があって、 楽しみがあって、友達もいるかもしれない。でも、私にはシン君しかいないから。 5.話しかけて欲しい。言葉は聞けなくとも、シン君の思いは届いているから。 6.シン君がどんな風に私に接したか、私はそれを全て覚えていることを知って欲しい。 7.私をもんだり、ピーする前に覚えておいて欲しい。私は歯でシン君を傷つけることができるにもかかわらず、 あなた(のモノ)を傷つけないと決めていることを。 8.私が言うことを聞かないだとか、頑固だとか、全部抱え込んでいるからといって怒る前に、私が何で苦しんでいるか考えて欲しい。 もしかしたら、食事に問題があるかもしれないし、長い間繋がっていたからかもしれない。 あるいは、できちゃって、つわりがきているかもしれないと。 9.私が年を取っても、私と暮らして欲しい。あなたもまた同じように年を取るのだから。 10.最後のその時まで一緒にいて欲しい。言わないで欲しい、「もう見てはいられない。」、「俺ここにいたくない。」などと。 シン君が隣にいてくれることが私を幸せにするのだから。忘れないで下さい、私は、セツコはシン君を愛しています。 セツコ「わ、シン君どうしたの?」 シン「いえ、ヨウランたちがデスティニーのシステムアップしてくれてるんですけどアボートが 起こるらしくて手こずってるようなんで差し入れ買ってきたんですよ、寒かったです…」 セツコ「外は雪も降ってきたしね。わ、手冷たい」 シン「わわわわっ!」 セツコ「あ、あっためてあげるね」 シン(セツコさんの手、暖かいなぁ……) ヨウラン「なあ、バグ取りせずに終わらせちゃっていい?」 ヴィーノ「……今回は差し入れに免じて耐えよう」 クワトロ「そこはおっぱいで暖めるべきだろう」 ヨウラン「な、なんでアンタがここに!?」 ハマーン「む、次は耳に手を当てたぞ」 アムロ「寒さ以外でも顔真っ赤だな」 シン「あ、ミズキさん」 ミズキ「あら、どうしたの?」 シン「実は、普段お世話になっているセツコさんにプレゼントしようと思ってるんですけど女の人ってどんなのをあげればいいか喜ぶんですかね?」 ミズキ「あらあら、もう冬なのに熱いわね」 シン「ちゃ、茶化さないでください///それでミズキさんならどんなのが欲しいですか」 ミズキ「うーん、そうね。私だったら服とか下着とかかしら」 シン「し、下着ですか?///」 ミズキ「ええ、なかなか丁度いいサイズってないのよね」 シン「は、はぁ…///」 ミズキ「時間あったら他の娘にも聞いて回りなさい。いい参考になると思うから」 シン「はい、ありがとうございます」 近くの物陰 セツコ「あれはシン君。ミズキさんと何を話してるのかしら…………ここからだと良く聞こえないわ」 シン「それで…ミズキさん………欲しい」 ミズキ「そうね………丁度いい……」 シン「ありがとうございます」 セツコ「そんな!シン君がミズキさんと!!そんな……」 アムロ「どうなると思う」ピキーン クワトロ「面白くなりそうだ」ピキーン ハマーン「見ものだな」ピキーン セツコ「シン君がミズキさんとなんてきっと間違いよね」 セツコ「でも、シン君って優しいから……」 セツコ「………ちょっと後をつけてみよう」 ラクス「プレゼントですか?まあ、ありがとうございます」 シン「いや、あんたにじゃなくて参考に…」 ティファ「私の場合は……ガロードが居れば何も」 シン「そっか、ありがとうな。これガロードと一緒に食べてくれ」つ(手作りクッキー) フォウ「思い出………かな」 シン「………あ、クワトロ大尉からもらった温泉旅行ペアチケット。良かったらカミーユとどうぞ」 琉菜「プレゼント?そうね、女の子ならやっぱりアクセサリーとか妥当じゃないかな。セツコさん相手なら手作りのお菓子とかもありかな。………え、私? わ、私だったらエイジからもらったら何でも嬉しいかな………なんて」 シン「アクセサリーか手作りなお菓子か。サンキュー、これエイジが映画のチケット。後は頑張れよ」 セツコ「ミズキさんだけじゃなくてラクスさんにまで!」 セツコ「ティファちゃんも!?しかもシン君、手作りクッキーまでプレゼントするなんて」 セツコ「何かチケットを渡した!……フォウちゃん嬉しそうな表情」 セツコ「琉菜ちゃんまで………琉菜ちゃんあんな顔して……まんざらじゃないのかしら………またチケット!………なんで、なんで私には……」 アムロ「どう思う?」ピキーン ハマーン「少年のプレゼントで結果オーライに1万」ピキーン クワトロ「セツコ君が私なんかほうっておいて!と言ってシンが落ち込むに3万」ピキーン セツコ「シ~ン君。(めっちゃスマイル)」 シン「(ビクッ!)は…はい!」 セツコ「なぜなに~見てたよー。あのシリーズ面白いねえ。」 シン「そ、そそそれはどうも。ハハハ…(ジリジリ後退)」 セツコ「私ね、あの番組の黒ウサギ君が可愛くて。(ジリジリ前進)」 シン「あ…あはははは…!」 セツコ「気になるなぁ。所々で桃色お姉さんから飛んでくる、黒ウサギ君の『女性関係』と…お姉さんに可愛いがられてデレデレしてる時…!(黒いオーラだだ漏れ)」 シン「違う!あれはラクスが遊んでるだけ!オレは弄られてるだけなんですってば!」 セツコ「あれー…?私、黒ウサギ君の事言ってるんだけどな。(どこぞの女帝並みプレッシャー)」 シン「う!?」 セツコ「シン君。」 シン「ハイ!」 セツコ「(スマイル最大級)―――ちょっと…お話しようか?」 シン「誤解なんですセツコさぁぁぁん…(ズルズル引きずられ退場)!」 キラ「…ラクス…」 ラクス「おほほほほ、私も流石に体重増加は避けたいので。糖分過剰散布しまくりなお二方には暫く控えて頂こうか…と。」 シャギア「やり手だな、オルバよ…」 オルバ「やり手だね兄さん。流石ラクシズの教祖…」 アスラン「……これでまた俺達の評判が…」 セツコ「シン君。あの…」 シン「あのさあ…マジで勘弁してくれないか?」 ルナ「ん~? なあに?」 ステラ「うぇい?」 シン「何で君達は俺に引っ付こうとするかね? 暑苦しいし、タリア艦長に思いっきり釘刺されてるんだよな」 ルナ「知らな~い。だってシンってば抱き心地いいんだもん」 ステラ「暖かくてぽかぽかするの」 シン「だから昼間っから俺に集中するの止めろっての。抱き枕でも懐炉でもないぞ俺は」 ルナ「んな事言って美少女二人に抱き付かれて嬉しいんでしょ?」 シン「自分で言うな」 ルナ「可愛くないわねえ。年下らしくお姉さんの言う事聞きなさい」 シン「姉貴面すんな!」 ルナ「む…シンは妹属性だったか。それならステラ、貴女の出番」 ステラ「……お、兄ちゃん?」(上目遣い) シン「っ…な、何か子犬っぽくて可愛いな。思わずハグしたく…」 ルナ「面白~い! んじゃあたしも便乗して…お兄ちゃん♪」(声色変えて) シン「!! マ、ユ……? ……危ねえ。押し倒す所だった…」 セツコ「…シン君はシスコン…かあ」 シン「あー、もう好い加減に疲れる。俺は何時から女難に…」 セツコ「…シン君」 シン「悪い物でも憑いてるか? いっそ厄払…って、せ、セツコさん」 セツコ「あの、ね」 シン「は、はあ。今回は何です?」 セツコ「……ぉ、お兄ちゃん///」 シン「・・・」 セツコ「・・・」 シン「何か悪い物でも食べました?」 セツコ「…食べてない」 シン「じゃあ、酔っ払ってるのかな。それともやばい薬でも」 セツコ「どっちも違う! それより他に何か言う事無いの!?」 シン「じゃあ、言います。……流石に、無理があるような」 セツコ「ううっ!」 シン「何に影響されたか知りませんけど、三つ上の人にお兄ちゃん呼ばれても、ねえ」 セツコ「ぐすっ…知ってたわよ、そんな事。でもシン君、シスコンだから私無理して…」 シン「否定しないけど、しなくて良いです。寧ろ、この場合はこっちの方が自然な気がしますね」 セツコ「え?」 シン「お姉ちゃん」 セツコ「!」 シン「お姉ちゃん…無理、しないで?」(年下パワー全開) セツコ「か…」 シン「か?」 セツコ「可愛いっ!」(ぎゅうっ!) シン「うを」 セツコ「もう一回、呼んでくれる?」 シン「っ…! む、胸で苦しいよお姉ちゃん! 息が…!」 アムロ「器用なものだな」 シャア「兄属性、弟属性双方を備える、か。稀有な少年だな彼は」 ハマーン「むう…理解が難しいな」 シン「お姉ちゃん」 セツコ「グフ、これは思った以上に強力だわ」 シン「どうしたのお姉ちゃん?」 セツコ「グオオオこれは危ないかも」 シン「変なお姉ちゃん♪」 セツコ「お姉ちゃんって呼ぶの禁止」 シン「どうしてですか、お姉ちゃんって呼んじゃダメですかセツコお姉ちゃん」 セツコ「ああやっぱりやめないで///」 シャギア・オルバ・アサキム「・・・・」 セツコ「・・いつから」 オルバ「シンにお姉ちゃんって呼ばせているwww」 セツコ「こ、これには訳が・・」 アサキム「大丈夫www僕たちは何もかもしっかり見たからwww」 シャギア「さっそくUNにアップしようwww」ダダダダダダ(逃走) セツコ「ええ、それだけは待って!やっぱりお姉ちゃん禁止」 シン「すごいですねこんなにメニューがあって。やっぱりボン・マルシェはすごい」 セツコ「戦艦にコンビニとか分けわかんないけどね。シン君何かおごってあげようか?」 シン「それじゃこれがいいです」 セツコ「(ザ・グローリー・パフェ、2000BS。GXが買えちゃう値段じゃない 本当は6000BS ) シン君やっぱりこっちのアカツキ・パフェに・・」 シン「お姉ちゃん、ボク、ザ・グローリー・パフェが食べたい」 レントン「まいどありー」 「セツコ……」 背中に重みを感じて、首だけを動かして後ろの様子を窺うと、ステラちゃんが私の背中にしがみついていた。 シン君に紹介されてから数日、彼女はこうして私を姉のように慕ってくれている。 孤児院にいた頃はまだ小さくてよく判らなかったが、こうして頼りにしてくれると まるで姉妹ができたようで嬉しく思えた。 「どうしたの?シン君を探してるの?」 「…………」 宥めるように問いかけても、ステラちゃんは私の背中にしがみついたまま、頭を横に振って否定する。 「私で良ければ話を聞かせて?私が駄目ならシン君を呼んで来るから……」 「ううん、セツコがいい」 そう言ってステラちゃんが手を離してくれたのを確認して振り返ると、彼女は今にも泣き出しそうな顔をして俯いていた。 いったい何が彼女をこんなにも悲しませているのか、姉心が湧いていた私は気になってしょうがない。 ここにいる皆に限ってそんなことは無いだろうが、もし苛められたりしていたなら特訓の成果でお仕置きして仇を…… そんな事を考えながらステラちゃんが話し出すのを待っていたのに、彼女からは予想外な言葉が告げられた。 「シンとセツコ…けっこんするの……?」 「えっ…」 私がシンと、結婚…… 「するの?」 「し、しません!」 個人的にはしたい、ですけど、彼にはルナマリアという相応しい人がいる。 それに私と結婚なんかしたら シン君きっと苦労するだろうし、不幸になる。 アサキムやツィーネに命を狙われる可能性だってあるんだもの。 シン君のタキシード姿見たいとか、シン君に毎晩夕食作ってあげたいとか思うけど、今のままでも楽しいし。 ……私って妄想癖があるのかしら。 「良かった……!」 考え込んでいると、ステラちゃんは嬉しそうに笑って私に抱きつく。 きっと私にシン君を取られると思って不安だったんだのだと思う。 「でも何処でそんな話を?」 「ルナマリアが言ってた」 「え?」 「セツコとシンが結婚したら、シンはセツコを独り占めする気だって……」 「……え?」 「そしたら、ステラ……セツコとあまり遊べなくなるって」 そう呟くステラちゃんは、私の軍服の袖をきゅっと摘んだ。 どうやら彼女は私が思っている以上に慕ってくれているようで、妹がいるってこんな感じなのかと心が緩む。 今度シン君に話してみよう。 「セツコ」 「ん?」 「セツコはずっとステラのおねえちゃんでいてくれる……?」 「ええ」 ニッコリと微笑みながら頷くと、ステラちゃんは私の腰に両腕を回してぎゅーっと抱きついてきた。 精神的にはまだまだ幼くて、家族の愛情とかそういう温かいものが、彼女にはきっと必要なんだ。 家族との記憶がない私にその役目が果たせているのか、少し不安になる。 そのとき、 「ステラ!」 慌てた様子で駆けて来たのは、話題の中心にいた張本人であるシン君だった。 「セツコさん、ステラが変なこと言ってませんでしたか?その……結婚がどうのとか」 「え?あ、それは……」 少し顔を赤くさせながら話すシン君につられてしまって、私は赤面しながら俯いてしまう。 ……と、そのとき、何を思ったのかステラが私を背にしてシン君の前に立ちはだかった。 「独り占め、駄目」 「す、ステラ、」 「めっ」 「あの、セツコさん、これはいったいどういう……」 「ごめんなさい、私にもよくわからなくて……」 「内緒の話も、駄目っ」 少し肌寒い朝のこと。 まだ誰も外を歩いている気配はなく、聞こえてくるのは鳥の囀り。 普段なら 授業の無い日は昼近くまで布団から動こうとしないシンが、こうして毎朝早起きをして走っているのには訳があった。 それは部活の早朝練習でも、新作ゲームの発売日でもなく…… 「セツコさん!」 「今日も早いのね」 この時間帯になると、いつも庭に咲いている花や木に水撒きをしている彼女、セツコに会うためだった。 偶然 友人と馬鹿騒ぎに付き合わされて朝帰りになってしまったある日、シンは(一方的に)運命的な出会いを果たしたのだ。 その際、どうしてこんな朝早くに歩いているのかと問われたシンは、咄嗟に「散歩」だと答えてしまっていた。 今では彼女に早く会いたいがために走って来ていると、ジョギングを始めたのだと勘違いされている。 しかもそれを理由に褒められたのが嬉しくて、彼の日課となっていた。 シンにとってセツコは憧れのお姉さんであり、片思いの相手でもある。 しかし年上ということもあってか、セツコは彼のことを異性というよりも弟のように想っていた。 そのため、それを自覚していたシンは、なんとか自分を男として意識してもらおうと奮闘していた。 「あの、セツコさん……今日の午後とかって時間ありますか?」 「午後?」 「はい!あの、よかったら昼飯…じゃなくて昼食を一緒にどうかと思って」 ただ食事に誘っただけだというのに、シンは茹蛸のように赤面してしまう。 一方セツコは、何かを気にかけるように自分の家の方へと振り返っていて、そんな彼の姿は見ていなかった。 なかなか返事が返って来ないため、断わる理由でも考えているのかと不安にかられたシンは自ら質問を取り消そうとする。 しかしそんな彼の予想とは裏腹に、セツコは意を決したような顔でシンを手招きした。 いったい何なのだろうと シンが庭を囲んでいるフェンスに近づくと、セツコは小走りで彼の目の前まで駆け寄ってくる。 今まで彼女の姿を触れられるほどの至近距離で見慣れていないシンの心臓は、いっきに心拍数を上げだした。 「シン君、耳」 「え?」 「耳かして?」 そう何故か小声で話すセツコに首を傾げながらも、テンパっていたシンはほぼ無意識でフェンスに耳を近づける。 その瞬間、シンは自分のとった行動に後悔……はしなかったが、平常心を保つのに必死になった。 自分の耳元に寄せられるセツコの唇。 「少しの間でもいいのなら」 「……っ」 「12時に近くのコンビニで待ち合わせを」 彼女の吐息が耳にかかり、女性らしい優しい香りがシンの心を追い詰める。 あまりの恥ずかしさに耐え切れなくなったシンは、思わず姿勢を正して彼女と距離を取って頷いた。 「そこのコンビニですよね?わかりました!」 「シン君?」 「何でもありませんから聞かないでください!」 「そう?」 「すみません……」 明らかに動揺していたのは自分だけだとわかると、シンはがっくりと肩を落としてため息を吐く。 と、その時、彼はふとセツコの行動を疑問に思ったことがあった。 それは何故、しきりに家の中を気にしてこっそりと約束を交わしたのか、である。 「家に誰かいるんですか?」 「!」 その質問をされた瞬間、セツコの表情が気まずそうになって シンから視線を逸らした。 シンは地雷を踏んだのかと慌てて質問を撤回しようとする。 が、その時だ。 「セツコ、何処にいるんだ!早く来い!!僕はついにやったぞ!ついに、ついに僕は世界を手中に収めたのだ!!その瞬間を君にも見せてあげよう!!」 「…………」 「………………あの?」 「あれは…アサキムの、兄さんの声です」 「え、えええええええええ?!」 セツコに兄がいた事にも驚いたシンだったが、彼女の兄であろう者があんな電波な発言をしている事にも驚いた。 過剰に反応するのも失礼だとは思ったシンはしどろもどろになるが、セツコはその反応を予想していたらしく、俯いてポツポツと話だした。 「その、兄さん昨日から徹夜でゲームをしていたらしくて、いつもゲームをクリアすると、エンディングを見せてくれる……というか、見せたがるんです」 「は、はあ…」 簡単に言ってしまえば、あの電波に乗った発言はただの厨二病だからである。 「今まで黙っていてごめんなさいっ、私、恥ずかしくて……!」 「そんな!気にしてませんって!」 本当に気にしてないと言えば嘘になるが、両手で顔を隠してしまったセツコを落ち着かせようとするシン。 しかし、今度はまた別の女性の声が聞こえてきた。 「朝から密会だなんて忙しいわね、セツコ?」 「ツィーネ!」 「お姉様でしょ?お姉様」 「え、姉えぇ?!」 シンの目の前に現れた露出の多い服を着た女性は、呆気に取られるシンには見向きもせずに門を潜って庭に入っていく。 それを目で追いながら、シンは彼女もセツコの家族なのだと理解しようと思考回路をフル回転させた。 ツィーネは手に持っていたコンビニのレジ袋をセツコに渡すと、早々と家に入ろうと玄関に向う。 「肉まん?」 レジ袋に入った三つの肉まんを見てセツコが首を傾げ、ツィーネはビクリと肩を震わせて立ち止まった。 「アサキムがお腹空いてるといけないと思っただけで!別にアンタの分はついでなのよ!ついで!」 「え?私も、食べていいの?」 「だからついで!わかったわね?!」 そう叫んで思い切り玄関の扉を閉めて逃げた彼女を見たシンの脳裏に、ツンデレという言葉が浮かび上がる。 「ごめんなさい、私、本当に何て言えばいいのか……!」 「だから気にしないでください!俺、今日待ってますから!」 「シン君……」 後日談 セツコとのデートで、より親しくなれたことに喜ぶシン。 しかし彼は、新たに彼女の個性的な兄と姉の妨害という試練に直面するのだった。 オワリ
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ブライト「今日は大掃除の日だぞ。各人、気合い入れて掃除するように!」 セツコ「よし、今日のために前もって大掃除を終わらせといて良かったわ。このままシン君のお部屋に行ってお手伝いしたら……」 セツコ「ありがとうございますセツコさん。本当に助かりました。是非お礼をしたいんですけど」 セツコ「そんなのいいわよ別に……」 セツコ「いいえ、それじゃ俺の気がすみません。何でも言ってください!」 セツコ「な、なんでも……!」 セツコ「なんて、なんちゃって……///」 セツコ「それじゃあシン君の部屋へ………ってあれはシン君?」 シン「ああ、もう、ちゃんと普段から掃除してればいいものを!」 ツィーネ「あはは、だってねぇ……」 レイ「シン、そろそろ次に……」 シン「ああ、わかった。次はミヅキさんの部屋だっけ?」 レイ「その次はハマーン・カーンでその次がアムロ大尉だ」 シン「ああ……どっちも掃除出来なそうだもんな……」 レイ「急ぐぞシン」 シン「ああ、わかった」 ツィーネ「ありがとさん。こんど礼するね」 セツコ「………あ、あれ、シン君自分の部屋は? ってかなんでシン君達他の人の部屋掃除してるの? シン君掃除大臣?」 ガロードなら、「あいよっ、いっちょ上がり!毎度あり~。ティファ、次は誰の部屋だっけ?」 てな感じで稼いでそうだけど、シンとレイじゃ、ボランティアだろうなぁw クワトロ「・・・・・何故、メイド服姿で私の部屋に居る?ハマーン」 ハマーン「フン、貴様の事だ、大掃除などやるまいと思ってな。『隅々』まで掃除してやったぞ」 クワトロ「た、確かに隅々までやってくれたようだな」 ハマーン「勿論だ。『ベットの下』から『クローゼットの奥』まで、な。まだ使うのかどうか 判らない物は、まとめておいたのでな。後で吟味すればよかろう?」 クワトロ「う、うむ・・・・・・」 ハマーン「コーヒーくらい出ないのか?シャア」 クワトロ「そ、そうだな。で、では喫茶室へ急ごう」 ハマーン「私はこの部屋でも一向に構わんぞ?」 クワトロ「さすがにその本の前で・・・い、いや、インスタントのコーヒーでは申し訳ないのでな。 勿論ケーキも付けよう。あぁ、動いた後なら冷たいものの方が良いか?それなら・・・・・」
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セツコ・オハラ(初登場:48スレ目 1341) _,,.。。 。。..,,_ ,. ' ´─-ミ─-ミ `ヽ . ' / \ \ /. /. . /. . . . . . /. ヽ .. ./. /. . /. . /. . . /. . . . . / イ / /. . . /. . . .|i | | |=ミ, //川 |__/,// . . . |i | |i | | . ム爪| | | ∧ /. . . `ヽ|i _ |_ |i |i | | |从 Y'広刈. . . | _」L」_∧|i リ |i | | 乂 刈 弋ツ\ハ〃ん)c刈 / 从j | | j{ ゞ‐゚' ∧ / / j{ | リ 从 〈 / / j{ | / / ゝ _ 厶イ ハ | // / \ `’ イ / / |_ _ _ | / / >‐=≦// /'´ __`ヽ / / /「 「 ̄| / // ̄__`ヽ ハ / / _ _ 〈.....|_,|....// /\/ Υ | } /xヘ// > ^>アく / /))' / |∨〉 √〉 /,、─-\////..../ √′ / ☆ {〈 | / /ヽ_ / 二二二ア../.........| ハ { / /〉〈∨}} . ヽ〈/|_/ / /ア了//...xf〔⌒| | { / // ∧ Υl \ ヽ / // | //'.xf〔⌒ | 八 У//< >| ヘ ) } /|乂_/' //'/ 八 \  ̄ 大 xヘ〉 / 〈 ̄ ア∨ .. //' .. ___xヘ =彡 _/^'У.......\ ∧../ /\ // ... _ ‐  ̄..//  ̄)\ Y \__ア.................\/ヽ / Y //.....ヽ'Y_ ー...................{ { / ) / ∧......................\〉 ^j从 { {..........{i{.............................{ { ^く_彡ァイ / ∧ ∨................../. 八iヘ { {..........∨, .........................{ { / / }/ /,//............___∧ ∧乂、........ゞ 、............/....∧∨ / 〈 / | |...............||7 jノ / ∧..≧s。 _\>く __\>< j{ | | |...............j{ / ∨/ 「.....{ { {⌒......./// \ / | | |.........../. \ }-=} } }=-..........// Y,八 ∧ ∨./ \xヘ......} } }...............{ { } \ >゚ /\__}.// /....γ ̄ { / ̄丶、 `¨¨´ xヘ............// /...... `¨¨¨| {/ /´\ 【備考】 シン・アスカのサポーター 追加任命は『スカウター』『エンチャンター』の任命が出来る。 【サポート効果】 『輝く栄光の星』… セツコ・オハラのサポート効果。 味方の技の命中を強化(1.25倍)する。 戻る
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◆明日の始まり◆ 月明かりが部屋を隈なく照らし出す。こんなにも月に近い場所があるのかと、シンは心の片隅で思いながらも、すぐさま目の前の行為に没頭する。 生まれて初めて見るような高い天井に、高い窓。 カーテンを開ききった窓際にあるベッドは月明かりに煌々と照らされ、照明を消す意味を為してはいない。寧ろ、肉感的に跳ねる身体が、その身に膜のように薄っすらと浮かべた汗が月明かりを反射させ、より艶めかしく、浮世離れしたように匂い立つ。 「んッ……ハァッ…ンンンッ…や、だ…め…も、もうッ……」 白い肌を月明かりに照らされながら、セツコの甘い声が耳朶を弄る。 キラキラと、絹糸の如き黒髪がセツコの身体が弾け、仰け反り、跳ね上がる度に忠実にシーツの上を流れる。涙を浮かべて見上げてくる星色の瞳に微笑みを返すと、切なげに歪められた表情が、それだけで綻ぶ。 「や……ッ…そ…て、やらぁ……つよ……すぎ…ぁぁ……」 仰け反る白い喉に、歯を立てるように乱暴に吸い付く。 舌を這わせながら、喉元から頬へと唇を移す。鬱血した痕に、卑しい満足感を得ると、更にその行為に繰り返し、繰り返し没頭する。 薄っすらと汗ばんだ肌は、彼女の芳しい匂いと甘さを一層際立たせる。 そうされるのをセツコが恥らうのを知っていて尚、知っているからこそ尚止められない。 彼女はそれに気付いているのだろうか。気付いていて、ワザと、こんなにも欲望を掻き立てる仕草をしているなら、やはりお仕置きが必要だろう。 セツコが歯を軽く首元に当て、そのほっそりとした手を背中に回す。自分の背中に爪痕を立てていくのが見ずともわかる。 以前は、他の誰に付けられても煩わしいと思っていた傷痕さえも、彼女が付けたのなら途方も無く愛しい。 思うが侭に蹂躙して、滅茶苦茶にしてしまいたいという凶暴で荒々しい雄としての衝動と、 想うが侭に抱き締め、すぐにでも消えてしまいそうな細雪のような彼女をそっと包んでしまいたいという愛しい男としての感情が絡み合い、うねりと化してシンの身体を突き動かす。 組み伏した彼女の姿を見飽きるほど見てきても、尚渇きを訴えている。 自分の中の、色々な過去に縛られ、待ち侘びていた本能 ―――― 執着、独占、飢餓が全て彼女に向けられているのだ。 普通の人間、まともな人間であれば様々な他者、思い出、しがらみ、絆で満たされているべきものが彼女以外を一切求めない。 彼女はいつも、事が済み、眠りから覚めると拗ねたようにシンの腕の中で呟く。 『余裕過ぎて……ちょっと悔しい…』 そう可愛らしい嫉妬を見せると、何と恥かしい失言をしてしまったのかと、胸に無理矢理顔を押し付ける。シンは苦笑を禁じえない。 余裕なものか、自分が必死に抑え込もうとしている凶暴な本能を、彼女がどれ程容易く刺激しているのか、実感が無いのか。 必死に、虚勢を張ってしまうのは、少しでも繋がっていたい為なのに。 腰を強く、強く打ち付けると、彼女が一際大きな声で啼く。 視界の端に映る満月。清廉な女王の住まう其処から放たれる光に照らされ、自分達は何とはしたない行為に耽っているのか。まるで月に痴態を見せ付けている羞恥心を抱く。 けれども、セツコは自分を組み伏しているシンの紅の瞳に炙られる心地の中、彼が自分のもの、自分だけのものであると宣言しているような優越感を覚える。 ぼやけた思考の片隅でそんな事を思っていると、一気に強い電流が走ったような激しい痺れが脳を溶かす。一瞬にして、そんな詩的な思考が霧散し、脳内が真っ白な世界に覆われる。 「んッ……ハァッ…ンンンッ…や、だ…め…も、もうッ……」 自分のものとは思えぬ声に、肌が更に熱を持つ。自分よりも遥かに自分の身体を知り尽くした青年が、無邪気に微笑みを浮かべる。 『アンタは俺だけ見てれば良いんだ』 そう視線が物語っているように思えたのはセツコの自惚れだろうか。涙が瞳の端に浮かぶのをシンの紅の瞳は目聡く見つける度に、ちゅっと小さな音を立てて舐め取る。 ゾクゾクとした快感と悦楽が走る。自分の涙をシンが舐める、ただそれだけの行為さえも、こんなに自分の心身は悦びを見出す。何処までも堕ちて行く。 不意に、優しく、愛しげな瞳が自分を包み込む。シンのその瞳を見るたびに、生の実感が込み上げる。微笑みでもって返すと、更に、もう一突き強烈に奥を突かれる。 「や……ッ…そ…て、やらぁ……つよ……すぎ…ぁぁ……」 仰け反ると、首筋にシンが噛み付いてくるように口付ける。自分をこうして離すまいとして付けられる痕を、こっそりと鏡で見つめるのが密かに好きだった。 もっと、離さないで欲しい、陳腐な手段でも何でも良い、ずっとその腕の中にいる資格を得続けたかった。何度も、自分の首筋に口付け、舐め上げる作業に、その黒髪を抱き締めることで応える。もっと、もっと、私を貪ってとはしたなく願う。 自分とは異なる男としてのシンの匂いが鼻を擽る。 子犬のようにセツコはそれに鼻を摺り寄せる。溶け合って一つになりたいという欲求と、一つになってしまったらこうやって抱き締めあうことも、繋がることも出来ない。 何てジレンマなのだろうか。 シンの首元に歯を当てると、一度強く噛み付くと、啄ばむ様に唇の雨を降らせる。背に手を回すと、爪を意識して立てる。彼の背中にある見えない翼を毟り取る為のセツコのささやかな儀式だ。彼の首にも背中にも、傷痕を残して良いのは自分だけ。そう見えない誰かに高々と宣言しているようだった。 それは今まで彼が言う『彼の弱さ故に戯れに抱いた女』であり、『縋りついた彼女』に対してもであった。 嫉妬深く、独占欲が強い。自分を『鳥かごに閉じ込めてしまいたい』と以前シンは照れながら言っていたが、セツコは本心からそれを望む。 そうして、二人で翼を毟り取り合ってから、一緒に歩いて行きたい。 そう願いながらギュッとしがみ付いた瞬間、そんな自分の戯れに抱いた空想を塗りつぶすような刺激がセツコの芯を駆け抜ける。 一際高く、甘い蕩けきった嬌声が喉を震わせる。 本能的にシンにしがみ付きながら、セツコは薄れていく意識の中、自分の『中』にシンの熱い塊のような奔流が流し込まれるのを幸福と恍惚と共に感じた。 ◇ 「くすぐったいよ」 シーツに包まったまま、自分をスッポリと背後から抱きかかえるシンが甘える用にうなじに顔を寄せるのを、形だけ身を捩って逃れるフリをする。 「だって、セツコ良い匂いがする~俺好きなんだよな~……」 「好きって…?」 今尚たった一つの言葉に頬を赤らめるセツコを見ると、耳たぶを咥えながら囁く。 「エッチした後のセツコの香り~」 心地良い倦怠感が一瞬にして投下された爆弾に吹き飛ばされる。 「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」 何か言いたげに口をパクパクさせるのを満足気に見遣りながら。逃げ道を塞ぐように更に強く抱き締める。 「はははッ。だって仕方ないだろ?良い匂いなんだぜ、ホントに。他の奴も知ったらそう言うって……」 耳元に口を寄せると「もっともゼッテェ教えないけど」と言われてしまうと、セツコの身体から抵抗する気力が消え失せる。 「ばか…」 「知ってる」 「えっち…」 「セツコもそうじゃん」 開き直ったっ子供は性質が悪い。特にセツコの身体を抱き締めているような図体だけ大きい子供は尚更。諦めたかのように、力を抜ききってシンの胸に頭を預ける。 何度目かになる行為の後、二人はずっとこうしてシーツに包まって手が触れられそうな位置の月を眺める。 それがこの二ヶ月間の恒例だった。 ◇ 二人はオーブを離れた後、幾つか回って現在サンドマンの城にいる。 二人を快く出迎えてくれたのはサンドマンを始めとするメイド達。エイジ等グランナイツ、そして、現在サンドマンの妻として収まっているアヤカ。 彼等は、一応ラクスから命じられた調査をしていたのだが、サンドマンはそれを聞くと、自身の独自のネットワークを用いてその調査に乗り出した。 する事もなくなり、再び何処か別の場所に向かおうとしたシンとセツコはサンドマンからその調査が明らかな結果を出すまでは城にいて欲しいと言われた。 特にやることも無いかと思ったが、シンは有事の際を考慮して行うエイジ、斗牙のトレーニング相手や、ゼラバイア無き後、新たに災害救助を前提とし開発された試験機のテストパイロットを頼まれた。ある意味シンよりもハードだったのはセツコであった。セツコはザフトから厳密には勅命も何も受けてはおらず、結果アヤカのお茶の相手や、メイド達に混じっての家事の修行、そして、好奇心旺盛な女性陣からのシンとの生活についての尋問ともいえる質問攻めに見舞われていた。 驚いたのが、大戦末期には感情を表すようになっていた、という程度のリィルが美しい少女へと成長し、密かに恋心を抱く義兄のエイジへどうアプローチすべきかに胸を痛めるほどになっていたことだった。 もはや、二つしか違わない少女の成長振りはある意味、シンに近い驚きをセツコに与えた。 リィルにとってセツコは『シスコンを骨抜きにした見習うべき大先輩』であった。言うまでも無く要らぬ入れ知恵をしたのはミヅキだ。 そして、サンドマンの城にいると聞き及んだ嘗ての仲間達が駆けつけた。 特に、ホランドと桂の親馬鹿ぶりには驚いた。娘に頬を緩ませきった姿は斜に構えていた大戦時のイメージを全くと言って良いほど払拭、否、吹き飛ばすものだった。 『シンも娘が出来ればわかるぞッ!!娘という存在の何と可愛いものかが!!』 『ああ、そうだ、わかるぞホランド。娘と共に過ごす至福のひと時を思えば、ナンパなんて時間の無駄以外のなにものでもない!!』 よったホランドと桂に挟まれ辟易としつつも、セツコもまた女性陣から早く子供が見たいだの、頑張れだの言われ、ほとほと困り果てた。 更には、自分も酔いが回り、口が滑りやすくなっていたのかついつい、本音を漏らしてしまった。 『でも…もう少し私は二人っきりが…いいなぁ…とか…その思ってて…』 その一言に、一瞬だけ水を打ったように女性陣は静まり返ると、蜂の巣を叩いたように囃し立てた。 けれども、それは涙が出るほど嬉しいひと時でもあった。 ◇ 「やっぱり、未来を失くさなくて良かった…」 「うん…?」 腕の中のセツコが左手を月に翳しながら呟く。 「お料理を覚えたり、アヤカさん達の子供を見たり……ああやって、大騒ぎしたり…諦めてたら味わえなかった…それでも構わないなんて、思っていたけど……やっぱり、凄く掛け替えの無いものだった…………ありがとうね?」 振り向き、見上げると同時に流れる髪がくすぐったい。 「俺はなんもしてねぇよ…アンタだろう?ここにいるのは、アンタの意思だろう…礼なんて…礼なら寧ろ俺が言いたいよ………帰ってきてくれてありがとう。もしセツコが帰ってきてなかったら、今も適当に戦って、適当に人と接して、適当に死んでたかもしれない……こうして、セツコと月なんて眺められないまま……」 浮かべた寂しげな笑みに胸を締め付けられる。ゆっくりと、ゆっくりと癒していく他は無いと知りつつも、セツコはこの笑みにどうしても弱かった。 「シン君…」 口を突いて出た言葉に、しかし、シンは眉を顰める。 「シン…君…?」 「あ……」 しまったと、思った時にはベッドに押し倒されていた。 「違うだろ…?」 「ああ、あの…シン君…アッ…じゃなくて…」 ジト目で見下ろすシンに焦って更に墓穴を掘る。 「だから、その…シン君………ッやぁんッ」 啄ばむような唇が首を軽く吸いたてると、掠めるようにセツコの唇にシンはキスをする。 「だ~か~ら、何だって?」 不意打ちにはどうにも弱いセツコは頬を桜色に染めると、ボソッと言った。 「………シン」 「よくできました、セツコ」 にっこりという笑みを浮かべると、シンはセツコの髪に顔を埋める。 「ちょっ、ちょっと、シンッ……んんッ……ちゃんと言った……やんッ…でしょ?」 ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と啄ばまれながら、息も絶え絶えに言うセツコに笑みを向けるとさも当然の如くシンは言い放つ。 「そ、ちゃんと言えたから、今からご褒美!!」 その言葉が今更何を意味するのか知っているセツコは顔を更に染める。 「だッ、めッ………これ以上……シーツ汚したら……」 「今更バレバレだからその申請は却下します」 シーツを洗うメイド達には、今更自分達が何をしているのかなどバレバレなんだからとセツコの上を泳ぐように唇と、指を滑らせていくシンに最早反論を言う余裕もなく、セツコがシンに溺れていくまでにはそうも時間がかからなかった。
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セツコは、部屋に入るとゆっくりというよりも、寧ろ恐る恐るという動作で歩く。 バルゴラから降りて、視覚が一時的に喪失する感覚にも辛うじてではあるが慣れ、ぼやけた視界でも慣れた部屋までの道のりは問題が無かった。 あまりにも長い時間コックピットに閉じ篭っていると不審がられると思い、少しずつ慣れるようにしていったのだ。 いつもならば、それを諦観にも似た思いで静かに、深く沈みこむ心地で受け入れるのだが、今日ばかりは勝手が違う。 ぼすっ、と軍服の上着を脱ぐことすらせず、シャワーも浴びずにベッドに倒れこむ。 セツコの耳の奥にシンの言葉が残っている。 セツコの脳裏にはシンが浮かべた笑顔が焼きついている。 自分を守ると言ってくれた。 自分を守りたいと言ってくれた。 真正面から、あの紅の瞳が自分を見つめたのだ。 涙が出るほど嬉しかった。 自分が彼の中にきちんといた事に、彼に大切な人間と思われているという事に。 セツコは、霞がかった視界を閉じる。 ベッドの上で胎児のように身体を丸める。 自分を抱くように抱き締めると、身体が小刻みに震える。 喜びと同時に、耐え切れない苦痛が心を苛む。 「こんなのって……こんなのってないよ………」 嬉しいのに、それが辛い。 わかっていたはずだ、覚悟も決めていたはずだ。 いつか、必ず訪れるからと、心に栓をして、誤魔化して、眼を逸らして、期待しないようにして。 いつか自分が『人』ではなくなる時のために、心を凍てつかせるように、未練を断ち切る努力をずっとしてきた。 それは今まで上手く行っていたというのに、どうして、この期に及んで、最後の戦いの間近でこんな感情に苛まれるのだろうか。 「知りたくなかった…気付きたくなかったのに……期待なんてさせないで欲しかったのに……」 視界がぼやける。視力のせいだけではない。 横たわったまま、滴がこめかみに流れ落ちる、とめどなく溢れる涙のせいだ。 想いは募る一方だというのに、それでも、せめて彼が否定してくれたら、拒否してくれたなら諦めも付いた。 それなのに、彼はレイを目の前にして、自分を守りたいと言ったのだ。 アサキムの仕掛けた様々な罠よりも、シンの言葉は優しくて残酷だった。 シンの言葉はまるで水のようにするりとセツコの堅固に塗り固めた覚悟に容易く染み渡り、脆く崩れさせた。 未練となるものは全て捨て去らなければならないのに。 自分が戦う理由は仇を取る事、『栄光の星』の誇りを示す事、そして世界を安定させる事、それで良いのだ。 その為に突き進む事こそが自分にとって最も必要なことであり、その為に悲しみを滋養として力に変えるしかないのならそうする事も吝かではない。 それ以外の想いなど、邪魔でしかない。 それも、報われることのない、叶うことのない想いならば尚更。 「シン君……シン君……」 脳裏に先程の戦闘で少年が向けた笑みが離れない。 「アレくらいの年頃の男の子ほど、ふとした切欠で素敵な男に化けるもんなんだから」と、以前ミヅキが言っていた言葉を思い出す。 それを聞いたとき、セツコにはその言葉の意味がわからなかった。男になるという意味が。けれど今ならわかる。 自分の答えを見つけた者の笑み。 自分の進むべき道をハッキリと見据えた『男』の顔だった。 涙に濡れた頬が熱い。 否定しようにも、こんなにも心が掻き乱される。 未練を断ち切らなければいけないのに、この感情は何よりも息づいている。 このまま眠りに落ちてしまおうか、そう思っているセツコの耳にチャイムの音が飛び込む。 思考の中に没頭していたセツコは、未だに戻りきらぬ視力を振り絞り、ドアへと向かう。 「―――――― ッ!?」 思わず息を呑んだ。ハッキリとしない視界でもわかる紅の瞳。 其処にはセツコが胸に抱いていた少年 ―――― シン・アスカが立っていた。 ◆ セツコは、大きく息を吸って心を落ち着けると、意を決してドアを開ける。 「シン君?どうしたの?とりあえず入って」 努めて落ち着いた風に振舞う。 声が震えていないかを確認するように、ゆっくりと喋る。 「あ……眠るところでした?スミマセン戦闘で疲れてるのに」 シンの言葉に、ようやく部屋の灯りを付けていなかったことに気付き、何事もないように点ける。 シンにはまだ視力の事を話していないのだった。 シンはやけに緊張した面持ちでセツコを見つめる。 「ううん。大丈夫だよ?」 「そうですか。あの……今日はありがとうございました。 その、俺、多分セツコさんがいなかったらやられてたし、それにレイも戻ってこれなかった」 シンがメサイアから脱出した時、その傍らにはレイがいた。 デュランダルの最後の望みがシンにレイを託すことだったと聞いて、ZEUTHの仲間達は複雑な顔を隠す事が出来なかった。 「そんな、私は大して役には立てなかったよ。それよりも……レイ君は今は?」 「はい、レイの奴は眠っています。テクスさんの話だと、過労とストレスから来る貧血だって…」 無理もないと、セツコは思った。デュランダルはレイにとって父のような存在、いや、それ以上の存在だったのだ。 その喪失のショックは計り知れないだろう。 「でも、しばらく眠れば大丈夫だって、だから気が抜けました正直」 ここしばらく張り詰めていたシンの表情がきっと和らいでいる事に、セツコは彼の空気を感じることで察する。 親友を救えたことに満足しているのだろう。 「シン君が真っ直ぐに気持ちをぶつけたからだよ、きっと」 シンは、笑みを微かに浮かべる。寂しげな、耐えるような笑みを。 「シン君?」 「……ホントは……少し迷ってます……レイを連れてきて良かったのかって、議長と死なせて上げた方がよかったんじゃないかって……」 傷が塞がりかけている唇を噛み締めると、シンは堪えるように俯く。 セツコは、弱々しく項垂れるシンの姿に、胸を突かれる。 シンは知っているのだ、遺される者の傷の痛みを。その傷みがどれほど心を蝕んでいくものかを。 それを、彼に、レイに押し付けてしまったのではないのか、自分のエゴがレイを押し潰す事になるのではないかと自責の念に駆られているのだ。 「違う…違うと思う……レイ君はそんな成り行きで流される子じゃないと思う。しっかり自分の考えをもって行動してる。 だからシン君の手を取ったのは紛れも無い彼の本心だと思う……」 お世辞等ではなく、それはセツコにとっては本心からの言葉であった。 きっと、レイにとってはZEUTHに戻ったというよりも、シンの隣に戻ったという感覚に近いのだろう。 レイが如何にシンをかけがえのない親友と思っているのか、直接対峙しその剥き出しの感情を向けられたからこそ、ハッキリとわかる。 『貴女がシンの心を奪ったッ!!』 レイに浴びせられた言葉が甦る。 セツコの胸に糾弾であるはずのその言葉は甘噛みされたような背徳感を伴った甘さとなって広がる。 その言葉は本当なのだろうか。確かめたいという気持ちと、それを恐れる気持ちが同時に沸き起こる。 (まただ…) 未練を断ち切らなければいけないと言い聞かせたばかりなのに、どうして未練になることばかりを考えてしまうのだろうか。 期待など抱いてはいけないとわかっているのに、どうして期待をしてしまうのだろうか。 彼の打ちひしがれた姿を、今、自分だけが彼の打ちひしがれた姿を目の当たりにしているという浅ましい喜び。 あの戦いの場にただ一人、自分だけが居合わせた事への醜い優越感。 「セツコさん……ありがとう」 セツコの想いに気付くことなく、シンはセツコの言葉に救われたように、安堵の笑みを浮かべる。 その笑みにまた胸が痛いと鳴く。そんな想いを厭うている筈なのに、胸の悲鳴が鳴り止まない。 このままシンを自分だけで独占してしまいたい。 二度とあの赤い髪の少女の元へと行かせたくないと思う。 「セツコさん…?」 思いがけず近くに聴こえた声に、ハッとして顔を見上げる。 セツコはぼんやりとした視界に映る、自身を真っ直ぐに見つめる少年の紅の瞳の変化に気付かなかった。 視力が回復しきっていたのならばそのような不覚を取らなかったであろう。 灯りを点けていなければそのような失態は犯さなかっただろう。 シンの紅の瞳が、焦点の合っていないセツコの胡乱な瞳を見て、驚愕に見開かれた事に。 「 セツ…コさん……?その目は…?」 「 ――――――――――― ッ!?」 戦慄くシンの声に、セツコは取り返しのつかない失敗を犯した事に気付いた。 自分の身体がどうなるのか、あの戦いで放たれた、ツィーネの言葉を、シンがおぼろげながら聞き覚えているとしたら。 「もしかして……視力の他にも……セツコさんッ!」 何処か責めるように声も荒くシンがセツコの肩に手を置く。 シンの手からの温もりに、その手の感触に、瞬間、セツコはピリッとした電流に似た痺れが身体を駆け抜けたのを感じた。 「嫌ッ」 その感覚の『先』にあるものを本能が知っているかのように、セツコは咄嗟にシンの手を払う。 シンはそれを、純粋に視力が見えない故の『恐怖』だと受け取った。 「ご、ゴメン!!俺……」 「ち、ちがうの、嫌だとかじゃなくて……」 シンの声に、酷く哀しげで寂しい感情が走っている事に気付いて、慌ててセツコは否定する。 嫌なのではなく、寧ろ今自分は ――――――――― 「そうじゃなくて……ゴメンなさい……黙ってて……」 「何時からなんですか……?視力だけじゃなくて、異常が出たのは……お願いですから、聞かせて下さい…ッ」 セツコは、最早黙っている事など出来なかった。 自分に向けられる声が本当に心から自分の身を案じている事が伝わる。 自分の力になりたい、嘘はついて欲しくない、そう切実に願っている事が痛いくらいにわかる。 「ガナリー・カーバーが変化した時から……味覚が……」 「味覚…って」 シンの顔から血の気が引いていく。 「だって、甘いって……飴を………それに、俺に……おにぎり…」 嬉しそうに飴を口に入れていたセツコの微笑が、頬を赤くしておにぎりを食べる自分を見つめていたセツコの顔が甦る。 あんなにも嬉しそうに、馬鹿みたいに笑ってと、あの時自分は苛立ちを覚えた。 おにぎりを作ってくれたことを、純粋に彼女がお人好しだからだと深く考えなかった。 本当は、何の味もわからないというのに、一体どんな気持ちだったのだろうか。 「ちくしょう……ちっくしょ……俺、何て馬鹿なんだよ……」 歯がみしてしまう。そんな境遇であった彼女の何を知った気になっていたのだ自分は。 そんなにも辛い時に、自分は自分の事で精一杯で、好意に甘えて。 「何が守るだよ……俺、何にも知らずに、何思い上がってるんだよ……ッ、何も出来ない癖に……くそっ…」 俯くシンの頬に、セツコはそっと手を触れる。 ハッキリとしてきた視界に、眉を顰め、今にも泣き出しそうに揺れ動くシンの瞳が入ってくる。 セツコは、ゆっくりとその姿を見つめながら、今一度言い聞かせる。 (そうだわ、やっぱり私は……) 彼はこんなにも優しい。だからこそこんなにも傷付いている。 こんなにも打ちひしがれている彼に、これ以上何かを求めてしまうわけには行かない。 一途に自分を守りたいと思っているだけならば、純粋に自分を守るべき対象だとしか見なしていないならば、これ以上期待するわけには行かない。 これ以上未練を作っては、これ以上覚悟を揺さぶられるわけには行かない。 彼の前から消えていくだろう自身に彼を縛り付けるのは許されない。 セツコは、心に沸々と滾る想いを押し殺し、溢れそうな激情に蓋をするように、精一杯の微笑みを浮かべる。 「大丈夫、私は。まだ、私は戦えるから、平気だから ――――――― だから、もう私を気にかけないで」 唇に力を籠めて辛うじてそれだけ口にする。 ――――――― だからこれ以上期待させないで。 その言葉だけを喉元で押し留める。 今の自分にしては上出来の振る舞いだ。あとは最後の仕上げに、そっとシンを押してあげればいい。 彼女の元に、あの少女の元に送り出してあげればいい。自分はもう大丈夫なのだと。 そう思い、シンの胸にそっと手を添えると、力を微かに込める。 込めようとしたところで、セツコの視界は真っ暗になる。 視覚が再び失われたわけではなかった。 ◆ 「シン……くんッ?」 私、抱き締められてるの?シン君に? 「何で、そんな顔してるんだよ……ふざけんなよ、笑ってるつもりなのかよッ」 耳元に触れる吐息と共に滑り込んでくる、怒りの声。 「俺は、アンタのそんな顔は見たくないんだよッ、もっと違う顔を見せてくれよッ」 華奢な外見に反した筋肉質な身体が、セツコの豊かな膨らみを押し潰す。 「笑えてるつもりなのかよッ、そんな何もかも叶いません、て泣くのを堪えるような顔が笑顔なのかよッ」 汗と、戦闘の残り香を纏ったシンの匂いが鼻腔をくすぐる。 「俺は、俺はセツコさんの本当に笑った顔がどんなに綺麗か知ってるんだよッ取り繕うなよッ、そんな事するなよッ」 押し付けられた胸から心音が耳に痛いほど響く。 「俺……バカで、ガキで、頼りないよ、セツコさんみたいに優しくもなけりゃ強くもないよ、けど……けどさ……」 肩を抱き寄せる手の感触に、息を呑む。 「どうして……?」 セツコがポツリと漏らす。 「どうしてそんな事言うの?どうしてこんな事するの?」 セツコの瞳からポロポロと滴が零れる。 「もう、もう止めてよッ、これ以上私を壊さないでよッ」 シンの胸を、思い切り力を込めて押し返す。 涙の溢れる瞳で、セツコはシンを強く睨み付ける。 堰を切ったように溢れる涙と共に、押し殺し続けた感情が、激情が、情念が爆発する。 「何よ、私がどんな思いなのか知らない癖に、どんなに怖い思いを抱えてきたのか知らないのに。 我慢して我慢して、諦めて、それでもやらなきゃいけないからって、どうなっても良いからって、そう思って。 覚悟して。でも辛いの。もう失いたくないから、だから何も想わないようにしてたのに。 何も期待しちゃいけない、もう失くしたくないからって。もしシン君に拒絶されたら、シン君の中に私の居場所がなかったらって、そう想って怖くて。 それなのにシン君は優しくて、だから勘違いして。嬉しくて、求めて。でも、もし拒まれたら、もう……ッもう、これ以上耐え切れる自信が無くて………」 幼い子供のように、嗚咽を上げながら、溢れる涙を軍服の袖で拭う。 それでも涙腺の壊れたセツコの瞳からは、何度拭おうとも、涙が途切れることは無い。 「嫌いッ、シン君なんか嫌い、大嫌い!! 子供で、年下の癖に生意気で、強がってて、いつも抱えこんでて。 弱い人をすぐに守ろうとして、すぐに傷付くくせに。いつも心配ばかりかけるくせに、自分だけで進もうとして。 私がどれだけステラちゃんやルナさんに嫉妬してたのかも知らずに、どれだけ憎んでたのかも知らないで、優しくしてきて。 私がどれだけ醜いかも知らないで………お願い……これ以上私の心に入ってこないで?………これ以上私にシン君を好きにならせないで……」 嗚咽を上げ、鼻を啜りながら、セツコは自分の見っとも無さに消えてしまいたくなる。 お姉さんぶりたいわけではなかったが、せめて、シンの前ではきっぱりとした態度を取ろうと思っていたのに、不意打ちで抱き締められた感触が自分の目論見を全て無に帰してしまった。無様で情けなく、泣き虫な自分が何処までも恨めしいと思った。 「セツコさん……」 シンの差し伸べる手を払い除けようとするが、思ってもみなかった強い力に、セツコは、俯いていた視線を上げる。 ハッキリと視力の戻った瞳には、顔を真っ赤に染めたシンが、それでも真っ直ぐにセツコを見つめていた。 熱に浮かされたような紅の瞳に見入っている隙をつくように、シンが腕に力を込めてセツコを再度抱き締める。 「いや、離してッ」 力を込めて引き剥がそうとするのに、シンは力を緩めるどころか、一層力を込めて、セツコを腕の中に閉じ込める。 普段のシンならばすぐに離すであろう筈が、思わぬ行動に、見上げると、セツコの顔に息が当たる程間近にシンの顔があった。 紅い瞳がユラユラと揺らめいていた。まるで炎であぶられているように揺れる瞳からセツコへと飛び火するように熱が奔る。 その視線を浴びて、セツコの『奥』に例えようの無い甘い痺れが奔る。 心のどこかで、完全に己が捕われた獲物のように感じられた。 「離しません。軽蔑してくれても構いません。罵倒してくれても構いませんよ、俺。それで、それでセツコさんとこうしてられるなら……」 熱に浮かされたように頬を真っ赤に染めたシンの吐息がセツコの頬をくすぐる。 シンの熱が籠められているのかと思うほどに、熱い吐息だった。 シンの熱が伝染したように、火で焙られた様にグラグラとする纏りのない思考の中から、抽出された想いの一滴がゆっくりと滑り落ちた。 「シン君……私を貰って………私の全てを…貰って欲しいの…」 シンの瞳が見開かれる。 ハッとなってセツコは腕の中から逃れようとする。 「ゴメンなさい…ッ」 なんてはしたないことを言ったの私!? 余りにも、自分の中の生々しい女の声に耐え切れず、セツコは逃げようとする。 しかし、セツコの腕を掴み、すぐさま腕の中に引き戻すと、シンはセツコの耳に唇を重ねる。 「最後の思いで作りって、そんな死ぬつもりみたいな気持ちなら…俺…協力出来ません」 何処までも優しい言葉に、セツコの瞳が涙で滲む。 「もしセツコさんが思い出作りで抱いてくれって言ってるなら俺は抱きません。でも、でも、だからって他の奴のところにも行かせたくないんです」 シンは口にしないものの、激しい独占欲に駆られていた。 セツコを他の男に抱かせるどころか、こんな弱々しく、艶やかなセツコの姿を他の誰かの目に触れさせることすら我慢ならなかった。 だったら、このまま朝まで拘束してしまいたかった。 セツコはシンの腕の中で、ゆっくりと首を横に振る。 「好きなの…シン君が…だから…だからお願い…一度だけでいいから、だから ―――――― ンンッ!?」 放っておくと、また哀しい、いじらしい言葉を紡ぎ出す気がした。 だから、これ以上そんな言葉を言わせまいと、その言葉を飲み干すように自分の唇をセツコの花弁のような桜色の唇に重ねる。 セツコの身体がピクッと小さく震える。 (キス……これが……?) 初めて味わう感触に、驚きと戸惑いを覚える。 その感触に、全神経を傾けていると、閉じた唇をノックするぬるりと湿った感触にびくりとする。 シンの舌が自分の唇を舐めていると、そう思うと同時にセツコの全身に羞恥と恍惚が溶けた鉛のように行き渡る。 羞恥のあまり、跳ね除けようとするセツコの意思を無視して、彼女の唇はシンの舌を招き入れる。 前歯の裏をなぞり、頬を突き、セツコの舌を絡めとり、軽く引っ張る。 まるでシンの舌は、喜び跳ねるように、セツコの口内を蹂躙していく。 「ンンッ……ん」 チュッ、ぴチュッ… セツコの部屋に互いの舌が粘膜を交換し合う事を訴えかけるような水音が響く。 死ぬ程恥かしいと思っているのに、セツコは自分が恍惚と意識を半ば刈り取られていくのがわかる。 シンは右腕でセツコの背を支えながら、左腕を滑らせ、柔らかくセツコをベッドに押し倒した。 (シン君……もしかして……慣れてる?) だとしたら相手は誰がしたのだろうか。ルナマリアだろうか。 セツコはいつの間にか、自らも積極的に絡めている舌の感触に酔いしれながら、同時にシンとこうした事のあるルナマリアへの嫉妬に身を焦がす。 最早取り繕うことも出来ない自らの嫉妬深さに、自己嫌悪に陥りそうになるが、セツコの瞳に映るシンの細められた瞳がそれを許さなかった。 余計な事を考えるなよ。 まるで捕らえた獲物に牙を突き立てる獰猛な肉食獣のような瞳に、捕食される側の恐怖と、悦びを本能的にセツコは覚える。 唇をチュッという音を立てて、離すと、互いの唇の間に銀糸が走っている。 それをまじまじと見てしまい、セツコは顔を更に染め上げるが、シンはすぐさま、唇をセツコの白い新雪のような首筋に走らせる。 「あ、あ…あ………んん」 微かに煙を上げて燃え立ちかけた嫉妬の炎は、すぐさま、飲み込まれていった。
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さぁ、幸せになろうか! 胸の動悸を抑えるように、一つ、二つ、三つと静かに深呼吸をする。 「綺麗…」 ほうっと、誰かがうっとりとするような溜息が部屋に小さく響く。 セツコは自分の鼓動を静めるのに一心で、その言葉さえも耳に入っていない。 不意に、瞼の上を撫でていた感触が消える。 「これで、完成っと……いいわよ?もう眼を開けても」 アヤカの言葉に従ってゆっくりと瞳を開けると、最初に視界に映ったのは、鏡の前で頬を紅潮させ、純白のウエディングドレスに身を包んだ自分自身の姿。 肩に手を乗せ、後ろからアヤカが満足気に微笑んでいるのが鏡越しに映る。 鏡台の前に座るセツコの後ろにはタリアにルナマリアといったミネルバのメンバー、ファやティファ、それにミムジィやタルホ、そして琉菜、リィルを始めとするグランナイツのメンバーが立っていた。 既に自分が通った道として、微笑ましげな笑みを浮かべるタリア達と異なり、グランナイツの女性陣はウエディングドレス姿のセツコにうっとりとした視線を向けている。視線が幾つも突き刺さるようで居心地悪く感じたセツコは、恐る恐る口を開く。 「あの……私…どこか変かしら……?」 自分の見目にイマイチ自覚の薄いセツコの言葉に、夢見るような視線を向けていた女性陣は即座に否定の言葉を口にする。 「ちっが~う!!セツコさんがあんまり綺麗だからついうっとりしちゃったのよ!」 「ハイ、とってもお美しいと思います」 「セツコさん綺麗です…」 「え……ッ、ありがとう」 琉菜やエイナのみならず、ティファまで羨む様にセツコの姿を見つめる。少なからざる賞賛の声に、緊張で紅潮していたセツコの頬に更に赤みが差す。 何処か夢見心地のまま、セツコは改めて鏡の中の自分の姿を見てみる。 ウエディングドレスに身を包み、アヤカにメイクを施してもらったおかげか、確かに今の自分は普段よりも幾らか様になって見えた。 本当に夢じゃないか不安になって、思わず自分の頬を抓ってみたくなるが、折角のメイクと衣装が台無しになってしまうと思い留まる。 「セツコさん」 薄桃色のドレスを着た赤い髪の女性がそっと、セツコに駆け寄ると、その手を取る。 「ルナマリアさん…」 ルナマリアの手の温もりが、長手袋越しに伝わり、セツコにこれが夢じゃない事を教えてくれる。 「アイツの事……よろしくね!!」 思いを込める為なのか、想いを断ち切る為なのか、セツコには最後に一瞬強く握り締められたルナマリアの心が込められたことだけは感じ取れた。 もしかしたら、幾通りもあった未来の中では、自分の位置に彼女が立っていた未来もあったのかもしれない。 それでも、セツコはその事に罪悪感を抱くことはなかった。 以前の、数年前の自分ならば、未来を諦めていた時の自分だったら、『彼』を想って、ルナマリアに今の居場所を譲ったかもしれない、けれど今は違う。 他人の想いを押し退けてしまう事になっても、構わないくらいセツコにとっては『彼』の手を離すことは考えられないことだった。 たった一つの、けれども決して譲れないものなのだから。 如何な言葉で飾り立てる事も無意味になってしまうからこそ、セツコは自分から今度は強くルナマリアの手を握り返す。 「ええ、絶対に一緒に幸せになるって…そう、決めてるから」 一瞬呆気に取られたような顔のルナマリアは、すぐさま不敵な笑みに変わる、『安心した』、そう彼女の瞳がセツコに語りかけていた。 木の軋む音が、控え室に響く。 露出の強い豪奢なドレス姿のミヅキが楽しそうに入ってくる。 「は~い、ここで、ちょっと今日、銀河で一番の幸せ者の登場~」 そう言ったミヅキの後ろからは長身の彼女よりも頭半分以上背の高い黒髪がひょいッと姿を覗かせる。 セツコのお願いで結局切らないまま今日を迎えた黒髪は、いつか彼女の言っていた「サムライ」のように高い位置で結われていた。 女性陣がズラリと居並ぶ部屋に、紅い瞳の彼は些か居心地の悪そうにまごつくも、意を決して足を踏み入れる。 黒いモーニングコートは彼の黒い髪と相まって、普段よりも一層精悍さを際立たせている。 「シン…」 たった数十分の事なのに、酷く待ち焦がれたような声が自分の喉を滑り落ち、身体がかぁっと熱くなる。 見慣れない彼の姿に自分が見惚れているのに気付いたのは、誰かが漏らした溜息が耳に入ったからだ。 シンの姿に自分と同じく見入ってしまったような熱い溜息に、ムッとする。 ちくんと、微かなヤキモチが胸を刺す。 自分がヤキモチ焼きなのは自覚しているけれど、もう少し堪え性を付けないと、等と栓の無いことを思いつつも改めてシンを見つめる。 彼は微かに息を呑むと、そのままセツコを見ていた。 シンの紅色の瞳と、セツコの星色の瞳が絡み合い、二人は見つめあったまま動かない。 「ああ~オホンッ」 タルホがわざとらしく咳払いをすることで、ようやく二人の間だけに流れていた時間が終わる。 セツコは、ハッとなって周りを見回すと、呆れたような瞳、困ったように浮かべられた苦笑、恥かしげに逸らされた視線に、自分達の行動をようやく客観的に思い直す。 (嫌だわ…私何て恥かしい事を……) シンと再会して以来、彼に甘える事の心地良さを知ってしまったセツコは無理矢理責任をシンに転嫁する。 (シンが私をいつも甘やかすから…) 本人が聞いたら、きっと喜ぶであろう八つ当たりを心の中で呟いていると、ルナマリアがシンに近付く。 「な~に今更見惚れてんのよッ!!」 肘撃ちがモロに腹に入り、シンの身体がくの字に微かに崩れる。 「うぐっ…ルナ…お前なぁ…」 「アンタねぇ、周りに人がいるって事をもう少し自覚しなさいよ!!あてられる身にもなれっていうのよ」 「うっさいなぁ、仕方ないだろ…」 「ああ~~ら、何が仕方ないのかしらシン君?」 「いつもと違って、その……綺麗で…いや、いつも綺麗なんだけど…」 何に対して言い訳をしているのか甚だ疑問だが、墓穴の底で更に墓穴を掘るような事を言い始めるシンにセツコは居た堪れなくなって真っ赤になる。 (嬉しい…嬉しいけれど、ここでは恥かしい…) 「はぁ~…もうやってらんない…後は勝手にしなさい」 肩を竦めると、ルナマリアは擦れ違いざまに、背伸びをするとシンに顔を近づけ、何事かを耳元で囁く。 余りにも小さい声だったため、何と言ったかわからなかったがシンの頬が僅かに染まる。 「ル、ルナァッ!!」 「あっははは、怒らない、怒らない。じゃあ少しの間私たちは席を外すから」 ルナマリアは笑いながらシンを適当にあしらいつつ、セツコに手を振ると控え室から皆を連れ立って出て行く。 「アイツ~」 閉じられたドアの方を睨みつけるシンにクスリと笑ってしまう。 「セツコ、どうしたんだよ?」 「うふふ、だって、シンってルナマリアさんといる時は何時も子供みたいなんだもの」 「アイツは絶対俺をからかって憂さを晴らしてる!!」 「それはシンの自業自得」 仕事嫌いの隊長に随分苦労させられてきた彼女にはこれくらいの憂さ晴らしは許されて当然かもしれない。 「もう隊長じゃないっての!!」 「ふふふ、そうね……って、シン?その頬……」 ドアを睨んでいたシンが正面を向くことで、セツコの眉間に微かな皺が寄る。 「何?」 怪訝そうなシンの頬に薄っすらとルージュが付いている。その色はルナマリアの唇と同じ色であった。 つまり、さっき顔を近づけた時彼女は掠めるようなキスをシンにしていたことになる。 「……シン、こっちに来て」 理由はわからないが、どこか不機嫌なセツコに手を引っ張られると鏡台にまで連れられる。 セツコは化粧品を手に取ると、二、三度ティッシュに染み込ませ、シンの頬を必要以上に力を込めて擦る。 「イタッ、痛いって、どうしたんだよセツコ?」 「いいから!!」 ムキになってこすり付けると、ようやくシンの頬に付いていたルージュが綺麗に落ちる。 紅く汚れたティッシュに目をやると、ようやくシンはセツコの不機嫌の理由がわかった。 「ルナの奴…ホントにこういう悪ふざけが」 「隙だらけのシンも悪いの!!」 頬を膨らませて怒るセツコに、何処となく嬉しそうに苦笑する。 ヤキモチを焼いて、ぷん剥れになるセツコは年齢よりもずっと幼く見える。 それがまた、おっとりとした普段の彼女とギャップがあって、シンは可愛くて好きだった。 だから、ついつい頬を緩ませてしまう。 「もうっ、いつもシンはそうやって笑う」 「ゴメン、ゴメン。でも、こんな日にそんな顔するなよ。折角綺麗なんだから勿体無いだろ」 そう言ってセツコの手を取ると、大して力も込めずに引き寄せる。そうする事がわかっていたセツコは、シンの引き寄せる力に全く抗う事無くスッポリとその腕の中に収まる。身体も心も、芯から滲み出すような温かさが広がって行く。 「……うん。ゴメンね、ヤキモチ焼いて…」 「まぁ、妬いてくれるのは結構嬉しかったり…いえ、何でもありません」 胸の辺りからじろりと可愛らしく睨み上げてくるセツコに言葉を打ち切る。 そんなシンに、吹き出すと、一転して華の蕾が綻ぶように微笑む。 「シン……凄く似合ってるね、その服」 (反則だろ…その顔は……) 恥らうように微笑みながら自分の腕の中から言うセツコの、その笑みにシンはくらりと目眩を覚える。 「セツコもすっげぇ綺麗……うわ…マジでルナに言われた通りになりそうで怖い…」 「言われた通りって…?」 小首を傾げるセツコに顔を寄せると、桜の花びらを貼り付けたような唇に吸い寄せられそうになるのを堪えて、普段と異なり白いベールに包まれアップにされた額にそっと唇を寄せる。瞳を瞑ってそれを擽ったそうに受け入れるセツコにまた、くらりとした。 「ねぇ…何て言ってたの?ルナマリアさん」 額に唇を重ねると、そのまま、こつんと額をくっ付ける。 セツコだけの甘い香りが、鼻腔をくすぐり、込み上げそうになる気持ちをシンはグッと抑え込む。 「……間違っても、襲うなってさ。メイクも衣装も直すのが大変だからって…」 「え…あッ!?ちょ、ちょっとッ、そ、それって…ッ」 言葉の意味するところを悟ったのか、セツコは頬を朱色に染める。 だから、そういう反応が反則なんだって、と思いつつもシンは懸命に自分の中の余り信頼の置けない「理性」にエールを送る。 「でも、実際ヤバイ…今俺凄くケダモノな事考えてる……花嫁ってあれだろ?ガーターに青いリボン付けるんだろ? それって新郎へのプレゼントっていう ――― 」 「ばかッ、すぐにエッチな事考えるんだから。これは神聖なおまじないなの!!」 「え?桂さんが『花嫁のガーターの青いリボンは花婿へのご褒美なんだよ』って…」 「情報のソースからして疑ってよ…サムシングブルーっていってね、人目に付かないところに忍ばせておくの。『花嫁の純潔の象徴』っていう意味なの」 そう、うっとりと言うセツコに「純潔じゃないじゃん」と、純潔を奪った本人であるシンは言いそうになって黙る事にした。 今度こそ本当に怒られるかもしれない。 怒った顔も可愛いが、今日という門出の日、純白のウエディングドレスのセツコには今のような幸せに胸がいっぱいになった顔がやはり一番映える。 「なぁ…その………触ってもいい……?」 酷く緊張したように、およそ似つかわしくない程に恐る恐るといった様子で切り出すシンに、何のことかすぐに察すると、セツコは微笑んで頷く。 未だに慣れない彼の反応が面白く、またやけに可愛らしかった。 了承の合図に、顔を輝かせてシンは恐る恐る手を伸ばす。 そっと、そっと、まるで驚いて逃げてしまう小動物を相手にするわけでもないのにとセツコが呆れる程にゆっくりと手を伸ばし、セツコのお腹に触れる。 ドレス越しに存在を確認するように。 「いるのかな……わかんないな…」 語りかけるように、手を優しく動かして撫でる。シンの手つきがやけにこそばゆく快い。 自ずと笑みが溢れる。 「まだわからないわよ……まだようやく三ヶ月だもの。でも…お腹の膨らみが目立つまでに間に合って良かったね」 「うん」 自分のお腹を優しく撫でるシンの手に、自らもそっと手を添える。 そうだった、夢見心地の自分だが、頬を抓らずとも、此処に確かに存在している命がセツコに今が夢などではない事を教えてくれる。 ◇ 『シン、何処なのシン?』 辺り一面が夜の帳が下りたような暗闇の中を、手探りで歩いて行く。これは夢なのだと、何処かで冷静に分析している、けれども夢、の中のセツコはそんな意思とは裏腹に暗闇の中を歩き続ける。 『シン ――― 』 大切な者の姿を求めながら、彷徨歩く自身の姿を滑稽に思いながら、それでも口を出るのは彼の名前だけ。 それしか言葉を知らないように歩き続ける。 『キャッ』 不安に眉を顰め、辺りを見渡しながら歩いていたセツコは急に何かにぶつかった。 何かではなく、誰かに。 『あ、ごめんなさ……え?』 何度も見てきた夢の結末はやはり何度も見てきた通りだった。彼女のぶつかった相手はシンではなく、金髪の青年。 嘗ての同僚でもあり、淡い恋心を抱いていた相手。そして、青年の傍にはスキンヘッドの精悍さと無骨さを併せ持った上官であった男。 『トビー…チーフ…』 二人は何を言うでもなく、ただ悲しげに微笑む。 まるで、セツコへの贄として殺された自分達と、当の彼女の現状との落差を嘆いているようだとセツコは何時も思う。 けれども、セツコの喉は凍りついたように言葉が全く出てこない。いや、仮にそうでなくとも、セツコは何と言えば良いのかわからなかった。 何度も、何度も同じ夢を見ながら、それでもセツコには彼らにかけるべき言葉が見つからなかった。 やがて、トビーとチーフの姿は灰のように音も立てずに崩れ去っていく。 ようやく、身体にオイルが行渡った出来損ないのロボットのようにぎこちなく動き始める自分の身体に鞭打ち、必死に灰を掻き集める。 けれども、幾ら掻き集めても、掻き集めても、穏やかな風に攫われて灰は暗闇に溶けて行く。 「あ……」 そこで何時も彼女は目を覚ます。目を覚ますと、自分は絶望の暗闇ではなく、優しい夜の闇の中、シンに抱かれて眠っている。 この温もりが自分の居場所なのだと、いつも安心する。 「大丈夫?」 頭上からの声に視線を上げると、優しく包み込むようなシンの瞳がセツコを見つめている。 セツコの枕になっていない方の腕をゆっくりと動かすと、シンはそっと目元を拭ってやる。ようやく自分が夢を見ながら泣いていたと気付く。 「ありがとね…」 そういってシンの涙を拭った手を自分の頬にそっと添える。シンの優しさがそれだけで溶け込んでくるような心地だ。 不思議な事に、セツコがこの夢を見る時、目を覚ますと必ずシンは起きていて、そっと涙を拭ってくれる。 悪夢というほど強烈なものではなく、セツコは跳ね起きるのではなく大概、ゆっくりと目を覚ます。 いつかレイから聞いたが、四年以上前のアカデミー時代のシンは目の前で吹き飛ばされ肉塊に成り果てた家族の夢を見てはうなされ、跳ね起きていたそうだ。 余りにも、鮮明で、おぞましい夢に自分の身を震わせている事、人知れず泣いている事も多かったと聞く。 その時、どうして自分はその場に居なかったのかと、無茶な事とはわかっていても悔しく思った。 そういう意味では、セツコは自分という人間は自分で思っている以上に薄情なのだろうかと思い悩む。 夢も、多くても月に一回程。毎夜毎夜魘されるわけでもない。 「セツコさん」 三年以上の時の隔たりを経て、そして恋人となって以来シンはセツコを以前のような『セツコさん』ではなく、『セツコ』と呼ぶ。 思わぬ事態で年の差が無くなってしまった以上に、心の距離が無くなってしまった故のことだが、この夢を見たとき、彼は意図的にセツコを昔のように 『セツコさん』と呼ぶ。呼び捨てる事でトビーやチーフの事を思い出してしまわないように、そう思ってのシンの優しさだとセツコは知っている。 「シン…?」 「ずっと、ずっと俺思ってたんだけど、何時もセツコさんが言ってた夢を見るたびに、何を言えばいいかわからなくて、結局何も言えないって」 耳元に囁くシンに、セツコは子供のように頷く。シンの指は、セツコの髪を優しく梳いていく。 指先に一房たりとも絡まないサラサラとした髪を指の間に通しながら、子供に語りかけるようにシンは続ける。 「きっとさ…きっと、セツコさんが、トビーさんやチーフさんに何も言えないのは…何も言う必要が無いからじゃないのかな」 梳く手を緩めずにセツコをギュッと胸に抱くと、シンは一言、一言を噛み締めるように呟く。 「セツコさんが一番わかってるんだろ?トビーさんも、チーフさんも、セツコさんだけが生き延びた事を恨む、そんな人達なんかじゃないって」 そうだった。チーフも、トビーも、セツコの身を案じていた。セツコに自分達が生きた証を、誇りを任せて散っていった。 「ただ、セツコさんを案じて、信じて。そんな人達がセツコさんの夢の中で悲しそうな顔をするのなんて、決まってる」 それは彼等の矜持であったのかもしれない。本当は不条理に襲われ、理不尽に殺され、悔しかった筈だ。悔しくて、訳もわからず、それでも彼らはセツコを不安にさせまいと、父のようにチーフは励まし、トビーは兄のように軽口を叩きながらセツコの不安を打ち消してくれた。 だから自分は戦えた。ZEUTHの仲間達に目を向けることが出来るだけの強さを得ることが出来た。 本当の意味で独りにならずに済んだ。 「セツコさんが、折角こうして生きているのに、幸せになるのを怖がってるからなんじゃないのか?」 幸せになるのを怖がっている、その言葉にビクッと腕の中のセツコの身体が震える。 「やっぱり…」と小さな呟きが漏れる。シンがずっと、この一年間の生活の中で感じ続けていた事だった。 たまに、ほんの僅かな瞬間、セツコは現状の自分自身に戸惑うような表情を浮かべる事があった。 自分が此処に居ていいのだろうか、本当にこのまま居てしまっても良いのだろうか、そう誰かに問うているような不安そうな顔をする。 シンにはそれが何より嫌だった。受けるべき権利を受けもしないで、そう憤りさえもした。 「正直、俺…多分嫉妬してるんだ。セツコさんが今でも夢に見て、涙流して。その度にあの人達に、今でも俺は勝てないのかなって、俺じゃ駄目なのかなって、スッゲェ不安になる……はは…かっこ悪いだろ?」 初めて聞かされた言葉に、セツコは顔を上げる。 さっきまでの優しい、大人びた表情はなりを潜めたそこには、紛れも無い剥き出しの『弱さ』を曝け出したシンの不安に揺れる瞳があった。 「だから、これは俺の勝手な解釈……俺に都合の良い解釈」 自分を抱き締めるシンの腕が微かに震えるのを感じ、そっと、耳を傾けるようにシンの胸に頭を預ける。 テンポの良い、心地良い鼓動が伝わる。 「きっと、あの人達はセツコさんが生きてる事を無駄にしようとしてるんじゃないかって…そんな心配してるんじゃないか。折角掴んだ平和を… 棒に振るんじゃないかって…だからセツコさんは何も言えないんです。だって、必要なのはどんな言葉よりも、幸せにしてる姿を見せることだから……」 だとしたら、自分はトビーを、チーフを ――――― 「スイマセン……俺、ホントにカッコ悪い…死んだ人達の代弁者気取って…何様なんだろ…」 「ううん、違う…シン君、きっと本当にカッコ悪いのは私だよ……トビーの為、チーフの為、そう思って生きてきて…… でも何時からなんだろう……いつの間にかその言葉を、自分の臆病さの言い訳にして…上手く生きれない事をトビーのせい、チーフのせいにしてた……」 何故だか涙が溢れてくる。セツコはどうして自分が今涙を流しているのかがわからなかった。 情けないからなのか、悲しいからなのか、誰の為なのか。 「俺も……俺もそうだった……力を得られれば平和な世界が作れる、そうすれば自分の家族のような人達を出さずに済む…そう思ってたのに、力を得ることがいつの間にか目的になってた……家族を奪われた自分には力を得る資格があるはずだって、そうやって言い訳にして……」 セツコの頭に顔を埋めるようにシンが一層強く抱き締める。 初めて聞く、本当の本音の言葉。 「けど、セツコさんと暮らしてて、いつの間にか家族の事を振り返る時間が無くなった……俺、言ったよね…16歳の俺を置いて行くって……きっとさ、そういうものじゃないかなって思うんだ」 「どういう意味?」 「人が死ぬのは二回あるって誰かが言ってた。一回目はその人の身体が死んでしまった時。二回目は忘れられた時。でもさ、忘れないっていうのは何時も、何時も思い返してるっていうことじゃないんだ……」 ふっと、力が抜けたように微笑むとセツコの瞳を真っ直ぐにシンの紅の瞳が見つめる。 「俺はさ、セツコさんがイチゴのタルトを食べて幸せそうな顔するのを見るのが好きなんだ。帰ってきたらセツコさんがエプロン着てて『おかえりなさい』って言ってくれるのも凄く幸せに思う。それで、たまに思うんだ『マユもイチゴ好きだったな』とか、『この味付け母さんのに似てるな』とか。 でもそれだけなんだ、ふとした時に少し思い出す。ただそれだけなんだ。きっとそれが生きてる俺たちと死んでしまった人達の距離が開くって事なんだ。 それは少し寂しいけれど当たり前で、多分それが『過去』とか『思い出』っていうものなんだ……代償っていうわけじゃないけど、でも、昔みたいにメソメソして過去を思い出してる時間が毎日、毎日セツコさんとの生活に書き換えられてる。でも絶対根っ子のところの思い出は消えない。 俺はそういうものだと思うし、それで良いんだと思う………」 それで良い、たったそれだけの何でもないはずの言葉にセツコは胸の裡のずっと底にこびり付いていたモノが剥がれ落ちていくのを感じた。 「良いのかな…?幸せに……幸せになってもいいのかな……?」 「 ――――― !?」 恐る恐る尋ねるセツコの余りにも幼い声に、その声が紡ぐ願いの欲の無さに、シンは不覚にも涙が零れる。 「――――― ます…」 「え…?」 「幸せに、幸せにさせてくれなきゃ………俺が怒ります……」 搾り出すように、呻くように吐き出された言葉に、セツコはシンの瞳から涙が零れているのに気付くと、そっと顔を近づける。 「しょっぱい…」 シンの涙を舐め取ったセツコは恥かし気にそう漏らす。 シンの胸にどうしようもなく抑えられない激情とも言える愛しさが込み上げる。 「セツコさんのせいです……責任とって下さい…責任とって……一生俺の傍で、俺にアナタを幸せにさせて下さい」 何て、何て心の中にズシンと響くのだろうか、この人の声は。 何て卑怯な声で、卑怯な言葉を言うのだろう。こんなにも自分を溺れさせておいて、もっと自惚れてくれても良いのに。今尚、どうしてこんなに切実に、 剥き出しの弱さをぶつけてくるのだろうか。シンの涙が移った様に瞳が熱い。 滲む視界の中、シンの顔を探るように、込み上げる涙の熱を分け与えるように、そっと、セツコがシンに口付ける。 「それだけじゃ……嫌……私ばっかり幸せになるんじゃなくて ―――――――― 私にもシンを幸せにさせてくれなきゃ……そうじゃなきゃ嫌……」 「ハイ。一緒に幸せになりましょう」 お互いなんて酷い顔だと、セツコは苦笑する。 お互いに裸で、涙で顔をくしゃくしゃにしながら、こんなプロポーズなんてそうそう無いだろう。 何て不器用なプロポーズなのだろうか。 セツコがドラマや映画で見たどんなものより、本で読んだどんなものよりも不器用なプロポーズだ。 けれど、それはどんなものよりもセツコの胸を幸せに満たしてくれるシンらしい、シンだけのプロポーズだった。 ◇ プラント最高評議会議長室。 ここにおいて、戦後を念頭に置いた新たな量産機の最終決定の見直しが厳選された5人のメンバー、ブレイク・ザ・ワールドの英雄達の間にて行われていた。 「ふぅ~ん、これがジャスティスをモデルにした量産機の決定案ですか……あ、ルナ、そのクッキー取って」 「そうですわ。戦闘ではなく、救助、改修といった作業に念頭を置いた本当の意味での“戦後”の量産機ですわ。キラ、レモンを一切れ取って下さい」 「へぇ~デザインはアスランなんですね…シンはビターチョコのやつで良かった?」 「相変わらずセンスが微妙だよねアスランは…はい、ラクス。シンそこの砂糖取ってくれる?」 「まぁハロを山ほど作るセンスだったりしますからね……キラさんは砂糖二つでしたっけ?」 「お前らーーーー!!!人をオーブから呼び出して軟禁しといて言うセリフかぁ!!!」 殆ど放課後のスタバの如き有様の議長室にオーブ軍少将、アスラン・ズラ…もとい、アスラン・ザラの怒声が響き渡る。 もっとも、激しい運動だろうが大声で歌おうが外部に漏れない完全防音の議長室内での彼の叫びは、目の前の四人にのみ届く。 最も毒を吐いていたアスカ隊の隊長シン・アスカは、手渡されたMSの設計書を ――― 今時紙媒体て…と思いつつも ――― 見遣りながら呟く。 「だって、これ殆どジャスティスの原型が無いじゃないですか……」 そういって設計書を手で弾く。そこに描かれているのは巨大な救護艇を模した最早リフターというよりもシャトルに近いものの先端に作業用ジンとでも言うべきMSがぶら下がっているものであり。シンは一瞬「これ何かの罰ゲームか……?」と思ってしまった程だ。 「リフターにあたるのは、推進剤がなくなったり、エンジントラブルに見舞われたシャトルを誘導するための補助ブースター的役割をする。だからジャスティスのリフターよりも大きいんだ。そして、このMSは機体の状態によっては応急修理も可能な作業用ジンを更に発展させた機体だ!!」 やけに、『発展』を強調するアスランを、紅茶を啜りながら横目で見ていたキラがぼそりと呟く。 「だったら最初から母艦に作業用ジンを載せていけばいいんじゃないの…?」 「そうですよね、わざわざこんな機体を作る必要は…」 「ところがこれが大ありなんですわ。まぁぶっちゃけアスランの設計したこの量産機自体の有用性は疑問視されるところです。でも『ザフトがこういった非戦闘型MSを量産した』という事実が大きいのです。機体のデザインも従来のジンやガンダムタイプでは無く、アスラン考案のブサイ……作業用機体相応のデザインというのもポイントです」 「まずはイメージから変えていこうって事なんですか?」 紅茶を飲み干し尋ねるシンに、ラクスは頷く。 「そうです。軍部内でもかなり波紋を呼びましたわ。せめて頭部はガンダムにすべきだとか愚にも付かない意見も少なからず。でも私は寧ろその『ガンダム』のイメージ自体が一番の問題とも思っています。ディアナ陛下も仰っていましたが、ガンダムというのは当然組織、パイロットによって様々なイメージがあります。天使然としているもの、悪魔のように見えるもの、おぞましい怪物に見えもすれば正義の使者、逆に殺戮の象徴と……ですが、共通して一つのイメージがあります」 「力……かい?」 「そうです。ムーンレイスの方達の伝承や、月の都の黒歴史のもたらすものは『ガンダム』という機体が立場はどうあれ一つの武力の象徴と化している点にあります。ジャミル艦長やガロードがガンダムを破棄し、∀も封印されました。ですからプラントもそれに準じるつもりです。いずれは武力の放棄を、遠い理想かも知れませんが、それでも私達はそうする必要があると思いました。だからこそまずはガンダムという機体の破棄から始めようと思っています」 「でも…そうするとシンやキラさんの機体はどうするんですか?」 「僕は構わないよ。元々アレはラクスが必要と感じたからこそ僕に委ねた力だからね。ラクスがこれから先必要無いと思うならそれでいいと思ってる」 「シンは?アンタのアレはどうするのよ?」 「欲しけりゃやるよ」 「乗れるか!!私に死ねって遠まわしに言ってるの!?ってそうじゃなくて、アンタはそれでいいの?」 戦う術を無くす。ザフトレッドとしては、いや、コーディネイターとしては余りにも歪な能力バランスを持ったシンにはキラのようなプログラミングや開発、イザークのような戦闘指揮などはあまり期待できない。故に、あの機体とシンのセットがあってこその、強力な戦闘力があってのアスカ隊だ。 ルナマリアは副官をしている為、様々な事務処理等を通して、各隊の能力分布や適材適所を把握していた。 アスカ隊は言ってみれば戦時下における遊撃隊に近い。戦時中ならそれが一番の要ではあるが、今ラクスの話した事が今後のプラントの方針とするなら、アスカ隊の出来る役割はどんどん小さくなって行くだろう。 「ああ、それでしたら問題ありませんわ。今度一度各隊を見直し、編成するつもりです。アスカ隊はその中で新たにホーク隊となってもらうつもりですわ」 あっけらかんと言われた言葉が理解できず、一瞬呆然となるルナマリアは、ハッとして立ち上がる。 「じゃあ何ですか?散々利用しておいて、もう用済みだからってシンはお役御免っていうわけですか!?」 「落ち着けってルナ」 今にもラクスに掴み掛からん勢いのルナマリアを止めたのはシンだった。 けれども、ルナマリアは納得が行かずに、シンに強い憤りを込めた視線を向ける。 「だ、だって、アンタは平気なわけ?こんな使い捨てみたいな……」 「つーか、俺が頼んだんだ」 「え?」 「シンはザフトを退役するんですの……」 「ホントかい、シン!?」 キラもギョッとしたようにシンに向き直る。 「何かあったのかシン?軍に居る事を止める理由が…」 アスランが気遣わしげに見てくるのを苦笑しながら、シンはラクスに視線を移す。 ラクスはにっこりと微笑んで頷く。もう言ってしまいなさい、と言っているようだった。 シンは頬をかきながら、決まり悪げに言葉を紡ぐ。 「まぁ、その…ザフトを抜けるのは結果というか、ついでというか…」 「どういう事よ、シン!」 「今度地球に住むんだ、セツコと。前みたいに任務とかを口実に半年いるんじゃなくて、永住するつもり。だから、もうザフトにいるわけにはいかないから議長に頼んでね…」 シンがセツコにプロポーズをしたのは確か半月前だったとルナマリア達は記憶していた。 つまり、一緒に住むというのはそういう理由だろう。 「でも、わざわざ…何でプラントを出て行く必要が…」 「プラントには未だに根強いナチュラルへの差別意識があります。以前よりもずっと改善されたとしても、それはどうしても拭い切れないものです……」 悲しいことですが、とラクスは続けた。それは、コーディネイターのシンとナチュラルのセツコが安心して暮らす以上は、 そういう差別の無い場所が必要なのだと言外に仄めかしているようでもあった。 「それに、やっぱり俺もセツコも地球生まれだから……母体には僅かでもストレスを与えない環境が必要だって艦長も言ってたしな」 シンが艦長と呼ぶ人物にルナマリアは一人しか心当たりがない。 現在は軍を退役し、息子と共に穏やかに暮らしている元・ミネルバ艦長、タリア・グラディスである。 「艦長がって……ん?………母体?」 ラクスを除く全員が、ルナマリアの言葉と共にハッとしてシンに一斉に視線を向ける。 シンは照れ臭そうに頬を微かに染めた。 次へ進む
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短編その3 『一夜明けても小さいままでした』 バザーに集まった人々の活気や、声を張り上げて商品を宣伝する商魂たくましい商人たちの声が飛びかう喧騒の片隅に、ブレイク・ザ・ワールドで混ざり合った世界の書籍を集め販売しているトレーラーの移動図書館があった。 マイクロバスほどの移動図書館の手動のドアを開け、小さな女の子が移動図書館の中に足を踏み入れた。 古びたマットの上を、とてとてと赤い小さなリボンがアクセントに誂られた黒い靴を履いたちっちゃな足がちょこちょこと歩き回り、在る一点で止まる。電子化されていない昔ながらの紙媒体の書籍が、床から天井まで埋め尽くしている本棚の前だ。 ん~~! と精一杯右手をのばし、つま先立ちになってなんとか指を届けようと努力していた。ぷるぷると小刻みに震えながらも懸命に指を伸ばし、足を伸ばして頑張るものの、物理的にあとほんの二センチばかり届かない。 実に無常。どんなに頑張っても決して埋まる事の無い空間が厳然と存在していた。手に届かない本を何とか取ろうとして、ちいさな女の子がぷにぷにと柔らかい指を伸ばしている光景は、誰が見ても手助けしたくなるような微笑ましく、愛すべき日常の風景であった。 「んん、あと、ちょっとなのに……きゃっ!?」 シックな黒いサテン生地のドレスに包まれたちいさな体の両腋に背後から手が差し込まれ、小さな女の子体をひょいっと羽毛を摘まむみたいに持ち上げた。 ぐんぐんと高くなる視界が、ちょうど手に取ろうとしていた本の前で止まってから、女の子――セツコ・オハラ(Ver.幼女)は、背後を振り返った。“あどけない”、“愛らしい”といった大昔から使い古されてきた表現が似合う。 陳腐とも取れる表現がすたれる事も無く使われているのは、その単純な言葉が真実と事実を表す言葉だからだろう。 ふっくらほっぺは一度つついたら一日中つついていたくなるように柔らかそうだったし、両手の中に在る小さな体はゴム毬みたいな弾力と柔らかさがあって、素肌に触れたらそのまま指が吸い付いてしまいそうだ。 サテン地のドレスは、ただそれだけで撫でる指に心地よさを訴えるさわり心地だったが、その布地の奥に在る小さな女の子の体の感触がそれに加わると、指がそのまま蕩けてしまいそうな位に気持ち良くなる。 くりくりとした瞳が自分を持ちあげた人がいる背後を振り返り、あ、と小さく唇が開かれる。 前から後ろを振り返る動作につられてふわっと舞う黒髪は、ほのかに甘い香りを漂わせながら、大地から延びる見えない鎖に巻きつかれて落ち、ふっくらほっぺをさらさらと撫でていった。 何もしなくてもしっとりと濡れて輝く唇は、自分をひょいっと持ち上げてくれた人が誰かを悟り、すぐにその形を笑顔に変えた。映す世界を緑に染める瞳に親愛の情が溢れ、瞳から溢れた想いはセツコの笑顔を光り輝かせる。 世界の隅々までも照らし出す太陽の様な輝きよりも、漆黒の天蓋で白く輝く月の様な輝きを思わせた。時に苛烈に人を焼く太陽よりも、どんな時でも夜空に輝くその姿が、見る者の心を慰める月が似合う。セツコ・オハラはそんな人だった。 「シン君」 「セツコさんが取りたかった本って、それであっています?」 「うん」 移動図書館の中に足を踏み入れるセツコの後ろ姿を見つけ、何を読むんだろうと興味本位で後を追ったザフトの軍艦ミネルバのエース、シン・アスカがちっちゃなセツコを持ちあげた張本人だった。 最初はセツコが取ろうとしていた本を代わりに取ってあげようとしたのだが、懸命に指を震わせながら本を取ろうとしている姿を見ている間に、不意に悪戯心が沸き上がり、持ち上げたシンが驚くくらい軽いセツコの体へと手を伸ばしていた。 両腋に差し込まれたシンの手に持ち上げられながら、セツコは、今度はちょうど良い位置に映った目的の本に手を伸ばして二冊を抜き取って、小さな両手に持った。 もう一度後ろのシンを振り返って、本同様にセツコと同じくらいの位置に在るシンの赤い瞳をまっすぐに見つめる。 シンの瞳にセツコが、セツコの瞳にシンが映る。もし、望む時間だけ互いの瞳に互いの姿だけを映す事が許されるなら、二人は世界の終わる時までそうする事を選ぶだろう。 「ありがとう、シン君」 「お安い御用です。でも、絵本ですか? セツコさんが読みたかったのって?」 「うん。正確に言うとメーテルちゃんに読んであげる本がこれなの」 「ああ、そっか。セツコさん、ちっちゃくなってから出撃してないですもんね。メーテル達の面倒とか見ていたんですか?」 「エウレカちゃんやレントン君の手が空いてないときとかはね。でも、私もこんなだから、あんまり大人としては扱われないけど」 くすっとセツコが漏らしたのは小さな苦笑。元の姿だったならともかく、確かに今の130センチかそこらのセツコの姿では、メーテルやモーリス達に、同年代扱いされても仕方がないとしか言えない。 今のセツコが絵本を開きながら、隣にちょこんと座ったメーテル達に絵本を読み聞かせている光景は、頭の中に思い描くだけでも心が暖かくなるようだ。 今度覗きに行こうかな、とシンは思った。一目見ただけでも未来への希望を感じとれるような、そんな心を優しくしてくれる光景に違いない。 終わりの見えない戦いに荒む戦士達に何よりも安らぎを与えるのは、未来への希望そのものである子供たちなのかもしれない。 「ところで、シン君」 「はい?」 ちょっと怒った調子のセツコの声に、あれ? とシンは心の中で首を捻った。ちょっと子供扱いしすぎたのだろうか? 「その、そろそろ指を動かすのを止めて欲しいかな。あの、ここ、奥の方だけど人が来ないとは限らないし、こういう場所でこう言う事をするのは、良くないと思うの」 「こういう? ……あ」 羞恥の色でほのかに朱に上気した頬に、かすかに震える睫毛をたたえて薄く閉ざされた瞼から覗く瞳は潤みを増し、絵本を抱えた指はきゅっと力が籠って絵本の表紙を小さく押し込んでいた。 セツコの様子になにかしたっけ? と首を傾げる想いでシンは自分の指を見た。手の平でセツコの幼い乳房の脇を支え、小さな背に沿うように親指は伸び、残る四指はセツコの体の前面に伸びている。 問題はその、残る人差し指、中指、薬指、小指の二セット計八本が、ムニュムニュとほとんど指が沈み込む事の無いセツコのなだらかな胸のラインを、休む事無く揉んでいる事だった。 八本の指が幼女に欲情した妖しい蜘蛛の足の様に動いている。時にゆっくりと、時にせわしなく、伸びたり曲がったり、押しこんだり抓んだりを繰り返し続けている。 身体的数値の関係上、アンダー用のキャミソールを身に着けている筈だから、上質の生地をふんだんに使ったドレス越しにもようやく隆起を描き始めた位のセツコの乳房の形が、目の当たりにしているかのように手の触感で分かる。 ただ触れているだけでも気持ちいい所為か、それともつい先日知ってしまった禁断の果実の、背徳の甘味を無意識に体が求めたのか、シンの指は遠慮などという言葉を放り捨てて、持ち上げられた所為で自由の利かないセツコの胸を弄んでいた。 無意識のレベルで行っている自分の行為に流石にシンも呆れ半分感心半分の気持ちで、セツコの要求通りにうごめき続けようとする指に停止を命じる。 そのまま指から絶頂してしまいそうなほどに、気持ち良かったセツコの胸から得た指先に残る感触は未練をたっぷりと感じさせていた。それでも、シンはあまり強固ではない理性を総動員して欲望をねじ伏せようと努力した。 セツコの言うとおりここでは人の目もあるだろうし、事情を知らぬ、否知っているものであろうとも、今の二人の状況を見たらシンが性犯罪者の烙印を押されるのは明白だった。 流石に性犯罪者呼ばわりされるのは勘弁だと思う程度には、シンの理性も残されていたからだ。 シンの指が動きを止め、持ち上げられていた体がゆっくりと丁寧に下ろされて、ぷらぷらと浮いていた爪先がマットに触れる。セツコは、ようやく自分の小さな胸をいじり回していた恋人の指が止まった事に安堵し、ほっと安堵の息をひとつ吐いた。 先日、こんなに小さくなった自分でも変わらずシンが心も体も愛してくれる事は、身を持って午前中から翌朝まで体験したが、人目を憚る状況でああいう事をされると、心臓に良くない。 シンもわざとやったわけではなさそうだが、少しは自嘲してほしいなあと思っても、セツコに罰は当たるまい。 シンは誤魔化すように笑った。まあ、セツコに怒った様子もないから、今後気をつければいいだろう、と軽く思っているだけらしく、あまり反省の色はなかった。 皺になってないかな? とドレスをチェックするセツコの目の前に、すっとシンの手が差し出された。見上げるセツコに、シンは薄く笑みを口元に浮かべた。 差し出された手がどんな意図を持っているかすぐに悟ったセツコが、小さな手を伸ばしてシンの手をきゅっと握る。男性としては比較的小柄なシンの手も、椛の葉の様なセツコの手と比べれば大きく映る。 痛くないようにと優しく包んだセツコの手の柔らかさと、まだ大人の姿だった時に比べてやや暖かく感じる熱に、愛おしさとこの人を守りたいという気持ちがより一層強くなる。 仲の良い兄妹の様に繋がれた二人の手。それはまるで、シンが永遠に失い、今も心のどこかで求め続けている過去の絆が蘇った様で、シンは不意に懐かしい妹の声を聞いた様な気がした。 ――お兄ちゃん―― 今はもう携帯電話の中にしか存在していない家族。父も母もその姿をとどめた写真や記録はなくなってしまった。唯一残っているのはずいぶんと旧型になってしまった、妹マユが欲しがった携帯電話だけ。 携帯の中でも一緒だよ、マユのメッセージと共に残った家族の形見。もうそれしかないたった一つの、シンがかつて持っていた絆を示すもの。失ってしまった絆の重さとぬくもりの暖かさを留めたもの。 シンと手をつないだセツコの横顔を見下ろした。マユが死んだとき、まだ九歳にもなっていなかった。今のセツコはほんの一、二年ほどマユよりも年上の容姿ではあるが不意に今は亡き妹の面影を重ねる事があるのは、否定できなかった。 もとからセツコに抱いていた愛情に、妹マユへの愛情や負い目を重ねてはいないだろうか? あの時、家族が皆死んでしまったと言うのに、自分一人だけ生き残ってしまった事に対する申し訳なさや、心の奥底に留めた罪悪感が今さら蘇り、それを誤魔化す為にセツコへ愛情を注いでいる振りをしているだけではないのか? 自分に問いかけてくる自分自身の声に、シンは一人、セツコに悟られる事無く心中で首を振り、自分自身が抱いていた疑惑を否定した。 違う。確かにマユの面影をセツコさんに重ねてしまった事はある。けれど、それでも、自分がセツコさんに抱いているこの感情は、世界の誰に対してでも誇れるこの想いは、セツコ・オハラにだけ向けたものだ。 “セツコでなければ”、“セツコだから”――こんな唐突に幼女化するなどという摩訶不思議な事が起きても変わらず愛し続ける事が出来ているのだ。どんな風に変わっても決して揺るがぬ愛という名の鎖、愛という名の絆、愛という名の赤い糸。 シン・アスカがそれを繋ぐのは、セツコ・オハラだけ。シンは自分がどれだけセツコに心奪われているのか、捕らわれているのか、縛られているのか、そして愛しているのかを知っていた。 少しだけ、セツコの手を握る指に力を込めた。雑踏の中を迷子にならぬようにと繋がっていたシンの指に、少しだけ力が籠るのを感じて、セツコがシンを見上げた。 心は変わらぬ筈なのに、外見相応の無垢な瞳が、シンの心の底まで見透かすようにシンの瞳を見つめる。 「シン君?」 こんなきれいな目で見つめられたら、どんなに後ろめたい事があっても、どんなに嘘に慣れた人間でも、眼を逸らさずに嘘を吐き通す事は出来ないだろう。 だから、シンは苦味を噛み締めた曖昧な笑みを口元に浮かべ、かすかに瞳を閉じながら答えた。その態度そのものが、何かあるのだと暗に告げている事を、シンだけが知らない。 「なんでもないですよ」 「……うん。今は、私にも言えない事なんだよね?」 「……はい。すみません」 「ううん、いいの。でも何時か私に話してくれると嬉しい。シン君の悲しい事でも、私は知りたい。シン君の感じている苦しみを私も感じたいから。二人なら、これからどんなに辛い事があっても半分になるから。私でよかったら、シン君の傍にいるから、ね?」 「……セツコさん、それって、ずっとおれと一緒に居るって言う、プロポーズですか?」 「えっ!?」 「はは、おれの方からしようと思っていたのになあ。これじゃ男の立場が無いじゃないですか?」 「あ、あの、えと、ごめんなさい」 「いいですよ。プロポーズって所は否定しないみたいですし」 「あうぅ……。だ、だって、私とシン君はもう……こ、ここ恋……人だし、ね?」 「ええ。ああ、そうだ、セツコさん」 「はい?」 「愛してます。心から」 「あ、あぅぅ、ししシン君、こ、こう言う人の居る所でそう言う事を言うのは、恥ずかしいよぅ」 「いいじゃないですか、減るもんじゃないし。プロポーズを先にされてしまった男のささやかなお返しですよ。それと聞き足りないんなら何万回だって俺は言いますよ。それだけおれはセツコさんにべた惚れですからね。こんなにちっちゃくなってもね」 「うぅ、シン君はずるいよぅ」 「先にずるしたのはセツコさんですよ。男を差し置いてプロポーズなんてするんですから」 「意地悪」 「好きな人にはね」 「もう!」 ぷい、と頬を膨らませてそっぽを向く小さなセツコの様子に、シンはただただ微笑みを浮かべるだけ。口ではセツコをからかうような事を言っているが、その胸の内にどれだけ喜びの風が吹いているのか、きっとセツコは知らない。 なによりもシンを喜ばせたのは、セツコが二人なら、と言ってくれた事。これまで失ったグローリースターの仲間との絆と誇りを、ことあるごとに口にし、過去を生きる糧にしていたセツコが、これからの事を――未来を生きると言う事を考えている事だった。 シン自身も過去の喪失を今を生きる糧に変えてきた。だからこそ失った絆を選ぶセツコの言葉や想いには共感できた。 でも、アーモリーワンでの初めての実戦から今日まで、体験した本物の戦場や、出会った多くの仲間達との交流が否応なく気付かせた。 過去を忘れるわけではない、ただ、今を生きている自分達は未来を生きなければならない。自分自身も生きる未来の為に、だ。決して自分がいない未来の為に、ではない。 セツコが時折垣間見せていた、自分自身の犠牲を前提にした未来の為の戦い。それが、今意識してか、無意識かは知らないが、セツコは自分がいる事を前提にした未来を口にした。 「セツコさん」 「……なに?」 ……の部分に込められたセツコの“怒ってますよ”という意思表示は、むしろ可愛らしい。シンはセツコの耳元に唇を寄せて囁いた。 「愛してます。ずっと、おれの隣に居てください。おれも、セツコさんの隣にいます」 「っ、だ、だから、そう言うのは……」 「ええ。だからセツコさんの部屋でたっぷりと言ってあげますよ」 「ひゃん!?」 甘く自分の耳を噛んだシンの行為に、みっともない声を上げて、セツコは頬を真っ赤に染めた。 今度は本当に怒ったのか照れ隠しなのか、それから部屋に戻るまでセツコはシンと口を利かなかったが、シンと繋いだ手だけは、決して離さなかった。 ――おしまい。
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セツコ「シン君!早くしないと遅刻するわよ」 シン「はいはい、わかってるよセツコ姉さん」 セツコ「ステラちゃん。口にパンくずついてるわよ」 ステラ「ん……(フキフキ)」 ラクス「シン、早くしないと遅刻ですわよ」 セツコ「ほら、ラクスちゃんも来たわよ」 シン「はいはい、行くぞステラ」 ステラ「うん……いってきます」 セツコ「ふう、やっと行ったのね。それじゃあ早速お掃除を………あら、これは死んだ母さんの日記だわ」 セツコ「………何か挟まってる」 セツコ「………そんな!私達とシン君、血が繋がっていないだなんて!!」 一方学校では エイジ「お前の姉ちゃん、すごい美人だよな」 シン「そうか?」 レイ「ああ、客観的に見る俺達からかなりの美人だ」 斗牙「そうかな。僕はステラの方が可愛いと思うな」 シン「そういえばカミーユは?」 レイ「彼女と食事中だ」 ステラ「最近一緒じゃなくて……ステラ寂しい」 斗牙「大丈夫、僕が代わりに一緒に居てあげるから」 シン「おい、斗牙。ステラにそんなに近づくな!」 ラクス「シン見つけましたわ!」 シン「げ、ラクス」物陰から 琉菜「いいな……私もあの中に混じりたいな」 キラ「(ポリポリ)これ15分ドラマなんだね」 キラケン「(ポリポリ)朝の連続テレビ小説だな」 アスラン「(ポリポリ)ああ、涙でたくあんがしょっぱい」 ルナマリア「(ポリポリ)私だってヒロインなのに……」 シン(最近、セツコ姉さんが妙によそよそしい。どうしたのだろう……何か心配ごとでもあるのかな?) ラクス「どうしたのですかシン?」 シン「ラクス……?いや、なんでもないよ。ところで何か用?」 ラクス「ええ、実は最近イザークさんからアプローチを受けていまして……」 シン「イザーク?ああ、3年のジュール先輩か。それが何か?」 ラクス「何かって………それだけなのですか?」 シン「え?」 ラクス「もういいですわ!」 シン「あ………ラクス!」 ???「そこの君」 シン「は、はい?」 フェイ「君に少し話があるんだけどいいかな」 セツコ(どうしよう……私シン君をすごく意識してる) セツコ(………やっぱりステラちゃんだけには話をするべきかな) ミヅキ「どうしたのセツコ」 セツコ「え、あ、ごめんなさい」 ミヅキ「別にいいわよ。それより今度、あんたん家に遊び行っていい?」 キラ「(バリバリ)このドラマいつも気になる所で終わるね」 キラケン「(バリバリ)うむ、このせんべいもうまいがドラマの作りもうまいのう」 アスラン「(バリバリ)なんか最後は主人公が刺されそうじゃないか?」 ルナマリア「(バリバリ)フン、シンなんて刺されてしまえばいいのよ」 マリュー「(バリバリ)さて、次は『キラキラだよ。全員集合』ね。これ面白いわよね」 キラ「いやー、最初はドラマ出演の予定だったけどいつの間にか冠番組もらっちゃって」 キラケン「ハハハ、わしらの実力も大したもんじゃのう」
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「シン君どこだろう…」 セツコはクッキーの乗った皿を手に、アーガマの通路を歩いていた。 戦争も終わり、彼女は味覚のリハビリを兼ねて度々お菓子を振舞う機会が増えてきた。 最初のうちは、微妙な味付けが出来ずに極端に甘過ぎたり、味がしなかったりと散々な出来であったが、味覚の回復と共に、 出来上がるお菓子の味も飛躍的に進歩を見せていた。 今日のは格別の出来であり、グランナイツの女性陣にも好評であったため、セツコはとりわけ形の良いものを選ぶと、 真っ先にシンに食べて欲しいと思って彼の姿を探したが、シミュレータールームにも彼の部屋にも、MSデッキにも姿はなく、 セツコはこうしてウロウロと彷徨うはめになっていた。遂には食堂の前に着くが、いつもはごった返している人の気配が無く、 時間的にはお昼を幾らか過ぎていることからも恐らくいないだろうと早々に見切りを付けて通り過ぎようとした時であった。 「美味しいです!!」 弾んだ声が食堂から響く。思いも寄らぬ声に、セツコは思わず通り過ぎようとした食堂を覗き込むとそこには二つの人影があった。 一つは小さな、可愛らしいお人形のような容姿に、エメラルドよりももっと深い色を讃えた髪とくりくりと大きく、幼くして既に 気品と聡明さに溢れ、将来は間違いなく誰もが瞳を奪われるような美しい女性になるであろう事がわかる少女。 もう一つの人影は、セツコの探している人物のものであった。 先程の賛辞がお世辞などではなく本心からの言葉であると、少女の浮かべる、その満面の笑みが物語っていた。 声の主、アナ・メダイユはスプーンを使って嬉しそうに目の前の小山、チキンライスの攻略に取り掛かる。 リュボフがいれば「品が無いです」と怒ったであろうが、生憎とそのような小言を言うものはおらず、アナ姫の対面に座って エプロンを脱ぎながら、元気良くチキンライスを頬張る様を見つめるのは一人の少年だった。 紅色の瞳を細め、健啖ぶりを楽しそうに見つめる瞳はいつに無く柔らかく、慈しみに満ちている。 セツコはそうそう自分でさえもお目にかかったことのない柔らかな笑みにドキッとする。 普段は切れ味の鋭い刀のように、戦場にあっては直ぐにでも喉笛を食い千切れるように身を伏せた肉食獣のような瞳をしている事の 多い瞳は、血の色、紅蓮の炎を比喩、もしくは揶揄される。 しかし、今、シンが目の前の少女に向けているのは全く毛色の異なるものであった。 見ているだけで胸がポカポカと温かくなるような、太陽のような瞳。 守られている、守ってくれると、無条件に信頼してしまいたくなる優しさと、柔らかさに満ちたお日様のような瞳だった。 胸がキューンっと締め付けられるように、甘い痺れが身体の芯から全身に行き渡る。 何時も目つきが悪いとルナマリアにからかわれている瞳があんな風にやわらかくなると一体どれだけの人が知っているのだろうか。 知れば、きっとシンを見る目は随分と変わるだろう、そう思うとやはり今のままで良いとセツコは考え直す。 コーディネイター故にか、元々目鼻立ち、容姿に優れたシンはその武勲と相まって密かにミネルバや他のクルーに人気があるのだと エニルやトニア、ミヅキから以前聞いたことがある。しかし、自分の存在や、彼自身心を開いた者以外に対してどこか寄せ付けない空気を 孕んでいる為、大手を振ってアプローチをかける者がいない。 それが今の彼の笑みを見てしまったら、個人的にかなり面白くない。 もっとハッキリと言ってしまえば、まだようやく7歳になろうかというアナに対してであっても、滅多に見せないシンの笑みをたった今、 独占しているという事実がセツコには余り面白いものではなかった。 19歳の自分が一回りも違う少女とも呼べない女の子に対して随分と大人気ないとはわかってはいるが、身の内側から沸き出でる感情ばかりは どうしようもない。失いかけた未来を取り戻した反動で、セツコはシンに対してはどこまでも欲の深い自分を自覚していた。 「そうか?でもあんまり食いすぎるなよ?夕飯が食べられなくなっても知らないからな」 形の良い深い藍色の頭を撫でると、アナはくすぐったそうに微笑む。年齢に反して聡明で早熟な少女は、きっと見目の良い年上のお兄さん に頭を撫でられるという行為が嬉しくも恥かしいのだろう。もっとも、シンは、男は徐々に男に『成長する』のと違い、女は生まれたときから 女『である』という言葉を知らず、そんなアナの反応を単純に頭を撫でてもらう機会の少ないお姫様故の反応だろうと思っていた。 「大丈夫です。こう見えても私はとても沢山ご飯を食べるのですよ?」 アナの言う『沢山』というのがどの程度なのか知っているだけに、シンは吹き出しそうになる。しかし、気位、気品はすでに立派なレディーと もいえる彼女の前で吹き出そうものなら機嫌を損ねる事が目に見えていたので「そうか、そうか」とまた頭を撫でる。 嬉しそうに撫でられるままにしていたアナは、ふと視線に入った人影に気付く。 セツコもアナと視線がばっちり合ってしまい、思わず『しまった』と思った。 あまりにも二人のやり取りが微笑ましく、邪魔をしてはいけないと知りつつも、シンが滅多に浮かべない微笑に見とれ、ついつい食堂の入り口に 立ったままの自分に気付いたのだ。 「あ~セツコさん!!セツコさんも食べますか~?」 手にしたスプーンをブンブンと振り、大きな声を上げるアナに、シンもセツコの方を振り返った。 「セツコさん?」 思いも寄らなかったのだろう、目を見開いて、「どうしてここに?」といった表情に理不尽と知りつつも、こっちはずっと探してたのに、という 気持ちと、自分の預かり知らぬところであんな笑みを浮かべて、という感情が沸き、頬を微かに膨らます。 「ごめんなさい。覗き見するつもりじゃなかったんだけど…」 「セツコさん……もしかして俺の事探していました?」 「え?」 言われて、シンの視線が手に持ったお皿に注がれているのに気付き、頬に血が集まる。 「クッキーですね。セツコさんが焼かれたのですか?シンに食べてもらうために」 チキンライスを飲み込むと、アナが無邪気な瞳で、ズバリと核心を突く言葉を放つ。 セツコは最早変な意地を張るのも馬鹿馬鹿しく無意味に感じ、頷く。 「……うん。今日は綺麗に焼けたから食べてもらおうと思って」 「いいんですか?いただきます」 「私も食べたいです!!」 「ダ~メ。アナ姫様はこれ以上食べたら夕飯がマジで入らなくなるぞ?」 「う~う」 「唸ってもダメ。それとも夕飯残して梅江婆ちゃんに怒られるか?」 「それは嫌です…」 見る見る内にシュンとなるアナが可愛らしく、可哀想に思い、セツコはそっとアナに駆け寄ると、頭を撫でてやる。 「姫様の分はきちんと取っておきますよ。可愛いラッピング付で」 「本当ですか!」 ぱぁっとすぐさま笑みを浮かべる、自分の感情に正直な小さなお姫様に、シンとセツコは思わず顔を見合わせて笑う。 ◇ 「ホント…美味しい…」 セツコは、自分用に取り分けてもらったチキンライスを一口食べて思わず何の捻りも無い素直な感想を漏らす。 ご飯がパラパラとほぐれており、ほど良くケチャップが絡んだケチャップライスとチキンは脂っこくなく香ばしい風味が広がる。 料理が上手いと聞いた事があったが、まさかこれほどきちんとしたものだとは思ってもいなかった。 「凄いんですよ、シンってすぐにパパパって作ったんです」 チキンライスを平らげたアナが瞳をキラキラさせながらセツコに身振り手振りで説明する。 「でもどうしてまたチキンライスなんて?」 アナの口元に付いたケチャップを拭いてやりながらセツコが根本的な疑問を口にする。 アナの食べ終えた皿や、フライパンを洗い終え、手を拭いながら戻ってくるとシンはニコニコと笑ってるアナに一瞬だけ、セツコにしか わからないほんの一瞬何かを懐かしむような、寂しげな笑みを浮かべるとセツコとアナの対面に座る。 「さっきね…エイジと斗牙がオムライスの話をしてたんですよ。斗牙はオムライスって食べたことが無いらしくて、ほら、あの城ってもっと 豪華な食事が基本でしょう?だからそういう素朴な食べ物を食べたことが無いらしくて。で、それはアナ姫様も同じみたいで」 「本当は斗牙も一緒に食べる筈だったのですが、用事が出来てしまって」 「まぁ、丁度俺も手が空いてましたしね、冷蔵庫にも材料があったし」 「そうだったの…でも、ホント、美味しい…シン君ってお料理上手なのね」 「私もそうだと思います!!シンは優しいですし、シンのお嫁さんになる人はきっと凄く、凄く幸せだと思います!!」 「ははは、そうかなぁ…」 「そうです!!私が保証します!!」 無邪気ゆえに、何の下心も無い言葉に、温かい気持ちになりつつも、このおませなお姫様をからかってやろうという気持ちがムクムクと 鎌首をもたげ、シンは紅の瞳をイタズラっぽく揺らし、口元に笑みを浮かべる。 「へぇ~、だったら、もしもの時はアナ姫様が俺をお婿さんにしてくれますか?」 「「ええ!?」」 声はアナとセツコの二人から同時に漏れた。シンとしては単純に冗談で言ったつもりだっただけに、 このリアクションは、それもセツコまでも同じリアクションを返した事は予想外であった。 「い、いや、あの、じょうだんで…」 慌てて否定しようとすると、アナは頬を林檎のように赤くしながらモジモジとシンを見上げる。 「その…私はメダイユの娘ですので、まずお父様にご報告をしてから正式な婚約の手続きをしなければなりませんし、結婚可能になるまで もう少し待っていただかなくてはいけませんよ…?」 「いや、だから、姫様…あのね」 何か予想外の地雷を踏んでしまった事に、シンは自分をモジモジと見上げるアナの視線と、その横で無表情という表情すら浮かべていない 『無』といった顔で、絶対零度の瞳を向けているセツコの視線をザクザクと感じながらようやく気付いた。 惜しむらくは、シンが人より鈍感であった事、アナが一般の年齢の子供よりも聡明で早熟な少女であった事への考慮不足、そして、シンが 自分が心からの笑みを浮かべる時、その紅い瞳が柔らかい光を帯びてどれほど神秘的に煌くのかに対して無頓着であった事であろうか。 シンにとってはある意味拷問のような微妙な空気は、しかし、第三の声によって壊されることとなる。 「アナーーこれからみんなでゲームやるからおいでよ」 ゲイナーが食堂からアナに向け大きな声を上げたのだ。 「ゲイナー!!行きます!!」 ゲイナーを兄のように慕い、懐いているアナはその言葉に、一も二も無く飛びついた。 座っていた椅子からひょいっと身軽に降りると、走り出そうとして、立ち止まる。 シンとセツコが不思議そうな顔をすると、アナは振り返って、ぺこりとお辞儀をする。 「シン、ご馳走様でした」 可愛らしく、元気良く、そして礼儀正しい少女に、二人はついつい笑みを浮かべてしまう。 それから、アナは頬を赤くしてからシンを見上げる。 「……シン…先程のお話の返事はもう少し私が大人になるまで待っていてください」 「へ…?ええ…ああ、うん…」 そういうと、恥かしそうに耳まで赤くしたアナはゲイナーに向かって走っていく。 残されたのは背中に微妙に冷たい汗を垂らしたシンとそれをどこか冷たい目で見つめるセツコであった。 「大人になるまで待っていてください、か…シン君ったら罪作りなんだから」 にこりと笑いながら、全く笑っていない瞳で見つめてくるセツコにシンは愛想笑いしか浮かべられない。 「アナ姫様は聡明な方だからすぐに忘れるなんてないかもしれないわね」 シンの愛想笑いが更に引き攣る。セツコはシンの方を見ずに、食堂の入り口、アナの出て行った方を見たまま柔らかく、けれども冷たく呟く。 「良かったわね、可愛らしいお嫁さん候補が出来て」 「セツコさ~ん…」 何時にも増して意地の悪いセツコに、とうとうシンは根を上げたように情けない声を上げる。セツコは溜め息を吐くと、呆れたようにシンを 見つめる。セツコも、シンの意図は十分に理解しているのだ。それでも、つい面白くなくてイジワルをしてしまった。 「シン君はね、もう少し女の子にかける言葉に気を遣わないとダメよ?」 誤解する娘が出たらどうするのと、言いそうになってセツコは辛うじてその言葉を飲み込む。 これ以上嫉妬深いと思われてしまうのは嫌だと思ったからだ。 「ハイ…胆に銘じておきます」 雨に濡れた子犬のように、情けなくうなだれる姿に、ようやくセツコの口元に笑みが浮かぶ。 「でも、シン君昔からお料理上手だったの?」 セツコは、空になった自分のチキンライスの皿を見ながら尋ねる。 シンはその言葉に、先程も浮かべた寂しげな笑みを微かに浮かべると、一つ小さく息を吐く。 その仕草だけで、シンが何か意を決して言葉を述べると知る。 「最初に作ったのは10歳の時でした。俺ん家は共働きで、妹の保育園に迎えに行くのも面倒を見るのも俺の仕事でした。きっかけは両親がそろって 帰りが遅くなるっていう電話をしてきた時で、それは珍しい事じゃなかったけれど。とにかく、俺はそれまでそんな時はカップ麺とかを作ってたん です。でも、妹は、マユはそれが嫌で、もっとちゃんとしたのが食べたいって、まだ4歳の癖に偉そうに言うんですよ」 そう言うシンの口元は優しく笑みを作っている。 もう二度と戻らぬ在りし日を思い浮かべているのだろう事は、容易に想像が付いた。 「それで、何食べたいって聞いたら『オムライス』って…結局卵が上手く出来なくて塩っ辛いチキンライスになりましたけど、 でもマユは美味しいって言ってくれたんです。絶対普段母さんの飯を食べてたら美味いはずないのに」 セツコは、その時のマユというシンの妹の言葉は恐らく本音だったのではないかと思った。 いつも自分を大事に面倒をみてくれる優しい兄が悪戦苦闘しながら自分の我が侭の為に作ってくれた料理はきっととても美味しいと感じたのだろう。 自分のためだけのチキンライスなのだから、不味い筈がない。 「それからかな…単純なもんで、美味しいって言ってくれるのが嬉しくて色々作りました。ハンバーグとか、野菜も摂らないとって思って シチューなんかも作れるようになりましたよ?でも、肉じゃがとか、そういう料理は作れませんでした。マユが喜びそうなものっていうと どうしても子供向けの料理ばかりになって。でも、もっときちんとしたのが作りたくて、それで、母さんに教わることにしたんです。母さん 俺に『シンは本当に優しいお兄ちゃんね』って、もう14だってのに頭撫でてきて…」 懐かしむように歪められた表情は今にも泣こうとしているのか、笑おうとしているのか判別出来ないものだった。 「でも、結局教えてもらえませんでした…」 「どうして…?」 「母さんが仕事休みの時に教えてもらうつもりだったんですけど、その前に、オーブは焼かれました…」 「あ……」 セツコは自分を張り飛ばしたくなった。気付いて然るべきだというのに、自分は何て鈍いのだろうか。 シンは、感傷を振り切るように、手元に下ろしていた視線を上げる。 涙が滲んでいるように見えたのは、恐らくセツコの見間違いなどではないだろう。 「だから、料理上手って言っても、ホント、子供舌が満足するようなものしか作れませんよ」 ハハハ、と力無く笑って、まるでこのお話はこれまでと言うようにシンはセツコの皿を手に取ると、片付けようと席を立つ。 セツコは、反射的にシンの手を握る。 「セツコさん…?」 「シン君……私の味覚って……まだ完全に戻ってないの……」 「え…?」 「それでね、だから微妙な味とかってわからなくて…」 セツコは、上手く纏らない言葉に、自分の口に苛立ちを覚えながらも言葉を何とか押し出す。 「それでね…私がお菓子ばかり作ってるのって、リハビリもあるけど、普通のお料理が上手じゃないからで…」 「………」 シンは何も言わずにジッとセツコの言葉に耳をそばだてている。 「でも、できれば…上手になりたいの…古臭いかもしれないけれど………好きな人より下手なままなのは嫌だから…」 セツコは、頬を赤く染めながらシンを見つめる。 セツコの熱が伝染ったように、シンの頬も朱に染まる。 「だから……その…一緒に練習しましょう?………シン君も、その、やっぱり……肉じゃがとかが美味しく作れた方が嬉しいでしょ?」 耳も、首も真っ赤になったセツコに、シンはようやくその意図を察したのか、柔らかな笑みを浮かべる。 それはアナに向けていた慈しむような笑みではなく、愛しい者を見つめる瞳だった。 「そうですね。セツコさんの肉じゃが食べたいな…」 そう言って、握られていた手を一度解くと、セツコの指に絡めるように握りなおす。 「ああ…でも、一つだけお願いがあります」 「お願い?」 握られた手から伝わる熱に、うかされた様に頬を林檎のように染めていたセツコが、羞恥と喜びで湖の表面の様に澄んだ色に潤んだ 翡翠の瞳をそっと、シンの紅の瞳に向ける。シンは、イタズラを思いついたように笑うと、そっとセツコを抱き寄せる。 「あ……」 不意打ちだったため、セツコは為すがままシンの胸にぽすんと身を預ける。 「その時はセツコさんも頂きますから」 そっと、耳元で囁かれた言葉に、喜びの余り涙を滲ませながらセツコは小さく頷く。